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「金利ある世界」の第一歩 家計もBSで見える化を

知っ得・お金のトリセツ(143)

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日銀の政策変更とともに金利が戻ってきた。金利は経済の体温計だから、長引いたデフレに別れを告げ、経済が温まってきた結果としての金利上昇は悪いことではない。問題はその程度とペースだ。

金利はお金の貸借料。金利上昇局面では、借金が多ければコストは重くなり、預貯金が多ければ金利収入増が見込める。どちらの影響がより大きいかは資産・負債の状況次第。企業は決算の度に「バランスシート(BS、貸借対照表)」を作成し、資産と負債を見える化している。家計もBSづくりを通して、資産・負債両方を管理するクセを身につけよう。

BSで健康状態を輪切りに

BSが示すのはある一時点での財政状態を輪切りにした結果。いわば健康診断のようなものだ。左側に資産を、右側に負債を書き出す。左と右は常にバランスをとるように同額になるので、資産と負債の差額を「純資産」として右側に計上する。

通常は資産の方が多く純資産はプラスだが、資産が値下がりしたり、借り入れが膨らんだりすると、純資産がマイナスになることでバランスする。これが債務超過状態。会社も家計も最も避けるべき事態だ。

資産は時価で把握を

実際に資産を左側に書き出してみよう。流動資産を上に固定資産を下に配置する。家計の場合、現預金、投資性の金融資産(債券や投信、株式など)、保険ときて、金(ゴールド)や車、自宅など不動産へと続く流れ。

保険は「今、解約したらいくら戻るか」を表す解約返戻金の額で把握する。シニア層なら近い将来にもらえる退職金や企業年金を入れてもいい。車や自宅は時価で把握するのが鉄則だ。最近は自宅マンション等の名前を入れると買い取り価格が出るような不動産情報サービスも増えてきた。 

負債で大きいのは住宅ローンだが……

次に右側の負債の部。こちらも返済までの期間が短いものから長いものへと書き出す。クレジットカードの残高も立派な借金だ。「そのくらい」と無視せず書き出そう。3回以上の分割払い、リボ払いには結構な水準の金利がかかる。

教育ローンやオートローンときて、一番額が大きいのが住宅ローンだろう。家計への影響が大きいので保守的に見積もって定年までには完済、もしくは最低でも退職金で相殺できるメドを付けておきたい。全期間固定で借りていない限り、今後の金利上昇局面では確実に負担増要因となる。

左右を見比べて影響を勘案

BSの右・左が書き出せたら、金利上昇時のブレーンストーミングだ。左側の資産サイドでは、預貯金に対しては金利上昇が明らかに追い風。既に三菱UFJ銀行と三井住友銀行などが普通預金金利を20倍の0.02%に、PayPay銀行は0.03%にすると発表した。長い間「どうせないもの」と思っていた金融資産がリターンを生むようになる。今後発行される債券や変動金利型の個人向け国債の利率なども上昇が見込まれる。

一方、株価や不動産への影響はより複雑だ。通常なら利上げは株価の頭を押さえる。借金をして投資をするメリットが薄れるからだ。とはいえ利上げ幅はごくわずか。この程度なら影響は限定的とも考えられる。

BSの右、負債サイドではローン金利上昇を覚悟する必要がある。銀行はBSの左と右のサヤで稼ぐビジネスモデルなので、家計の立場としては預金金利アップによる収入増より、ローン金利上昇が重荷になる展開が待つ。

とはいえ、慌てて左側の預貯金を取り崩し、右側の住宅ローン返済を急ぐのも考えもの。住宅ローンは個人の借金としては最も有利な金利水準だし、節税効果が見込める毎年の住宅ローン控除との関係もある。債務者の死亡時などに返済を免除する団体信用生命保険(団信)も付くのが一般的だから「あえて繰り上げ返済しない」という選択もある。いずれにしてもまずは「見える化」が最初の一歩だ。

山本由里(やまもと・ゆり)
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年からマネー・エディター、23年から編集委員兼マネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。

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