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製品の開発・改善、社内の多様な人材を巻き込もう

林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)

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米国には「自分のドッグフードは自分で食べる」という言い回しがある。「ドッグフーディング」と略されることも多い。自社の製品は人様に売る前に、まず自身でも真剣に毎日使ってみる、という意味だ。

業務すべてを自社製品・サービスで

グーグルと仕事をすると、彼らが業務のすべてを自社の製品やサービスだけでまかなっていることに驚かされる。クラウドの開発エンジニアがテストで使っているというレベルの話ではない。まったく関連のない業務にも、家族との連絡にも、子供の学校関連の用事にも使っている。

彼らのクラウド環境にはメール、ワープロ、表計算、プレゼンテーションなど、すべてが組み込まれているので、日常業務のほとんどはこれだけでこなせる。使い込むことで、製品の良い部分と悪い部分がわかり、機能を改善できる。もちろん、ライバルのマイクロソフトも自社の製品やサービスを使って日常の業務をこなしているし、もっと小さなスタートアップ企業の多くも同様だ。

「我々もそうしている」と主張したい日本企業も多いだろう。だが、これはただ自社製品を使えばいい、という話ではない。

例えば、つくっている製品が一般の消費者向けの製品だったとしよう。毎日、遅くまで残業で、週末くらいしか日常生活がない社員が、本当の一般消費者としてのユーザー視点を製品の開発に盛り込めるだろうか。そもそも、同じようなタイプの人材ばかりが集まった製品開発グループの中だけでドッグフーディングをしていては、どうしても視点が偏ってしまうのではないか。

グーグルやマイクロソフトの製品やサービスならば、開発チームはもちろん、経営陣や人事、経理、営業など、開発に関係ない社員達も日々使っている。そうした人達の中には、男性であれ女性であれ夕方5時には会社を出て、子供の親として生活している人も多い。そうやって社内の多様性を存分に生かすことで初めて、ドッグフーディングは意味を持つ。その製品をつくること事態が存在意義となっている小さな開発グループが内輪で運用しているだけでは、ドッグフーディングが、むしろ独りよがりを増長する危惧もある。

他社のやり方に見向きもしないのは問題

シリコンバレーでは、人々が会社の垣根を越えて集まって話題の新製品の情報を生身で交換できる場所がある。また人材の流動性が高いため、実際にライバル社で競合製品をつくっていた社員が社内にいることも少なくない。このため、ドッグフーディングを実践するための多様性が得やすい側面がある。

全社員が自社製品を愛するあまり、他社のやり方に見向きもしなくなる、というのはゆがんだ愛社精神で、悪い兆候だ。

「そんな会社があるのか」と驚く方もいるかもしれない。アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」が昇り調子の2009年に、関西の家電メーカーが集まる会で講演をしたことがある。来場者にiPhoneを使ったことがあるかをたずねたところ、300人ほどの会場で手が挙がったのはわずか3~4人。iPhoneがいよいよ勢いに乗って、翌年にはタブレット(多機能携帯端末)「iPad(アイパッド)」が発表される、という時期だ。

「会社を裏切るようで、手をあげられないだけ」かもしれないが、触ったことはあって、その上で自社製品を愛している(あるいはそうなるように目指す)、というのが本当の愛社精神ではないだろうか。

[日経産業新聞2014年7月22日付]

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