米中は通貨戦争よりサイバー戦争
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では「通貨戦争」が話題となったが、米中間では「サイバー戦争」が最もホットなアジェンダ(問題)になっている。
米国防長官は「サイバーのパールハーバー」と日本人にはドキッとするような表現を記者会見で用い、警戒感をあらわにしたこともある。
特に、今回は、米サイバー関連調査会社マンディアント社が、APT1と呼ばれるハッカー集団が、中国人民解放軍の61398部隊の一部と特定したことで、にわかに切迫感が強まっている。その部隊の拠点とされる上海・浦東地区の12階建てビルの写真まで公開された。「入場禁止、撮影禁止」の看板が立つ軍事施設地域の一角にあるという。その隣にある幼稚園が61398部隊に属するとされる。
マンディアント社が、そこまで特定した根拠として挙げているのは、APT1が上海の浦東地区にある2つの大型テレコム・ネットワークを使用していること。浦東地区には、中国のコンピューターテクノロジー機関の上海支社があること。APT1のハッカーが中国軍部隊の頭字語(アクロニム)と読めるパスワードを使っていること、などである。
ここまで具体的に非難されると、中国側も直ちに反論。外務省副報道局長が「サイバー攻撃は国境を越え、匿名性があり、当該リポートによるハッカー攻撃の特定には信ぴょう性無し」と一蹴している。
振り返ってみれば、ニューヨーク・タイムズが温家宝氏家族の蓄財疑惑を報道した際に、執拗なハッカー攻撃を受けたことを明らかにした。
米国司法省がソフトバンクのスプリント・ネクステル買収に待ったをかけたのも「安全保障上」の理由による。ソフトバンクが、中国の大手通信機器会社、華為とZTEの2社と取引関係にあることが問題視されたのだ。米下院の情報特別委員会が12年10月に、この2社と中国共産党、中国人民解放軍との特別な関係を断定したからだ。華為の複数の元社員から、人民解放軍の特定部隊に特別のネットワークを秘密裏に提供していることを示す書類を入手したとされる。
しかし、具体的な関係機関の名前まで特定したリポートは、今回が初めてだ。
米国政府関係者は訪中の際、ブラックベリーなどの携帯を全てOFFにするという。
そういえば、筆者も、機上インターネット可が売り物の航空会社に搭乗したとき、朝鮮半島から中国領空内に入った途端にアクセスがプッツリ途切れ、アフガニスタン領空に出たら、再開したという経験を思い出した。
それにしても「サイバー・パールハーバー」という表現は控えてほしいものだ。
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
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