コツコツ型女子、金投資熱に透ける老後不安
昨晩、丸の内のビル地下で、コツコツ堅実系女子のためのゴールド講座が開催された。出席者の多くは30代前後の「アラサー」。ほぼ全員が「金つぶ」読者。事前アンケート調査で「最大の心配事」の答えは圧倒的に「老後」であった。
氷河期に育ち、「年金はもらえない」という前提で自らの資産運用を考えている。だから「年金逃げ切り」のシニア層よりはるかに切迫感が強い。
独身アラサーが多かったが、彼女たちには「結婚する」「しない」の二つの選択肢がある。しかし、どちらに転んでもカネはいる。だから経済の知識も増やさねば――と考える。しかも、依然日本は男性社会。同年代の男性の3倍は勉強せねば、という意識も強い。草食系男子より明らかにたくましい。だからセミナー中もとにかく熱心。聞きつけて取材に入っていた「ガイアの夜明け」のクルーが「まるで進学塾みたい」と目を丸くしていた。ノートの行ビッシリに埋めるように女性らしくキッチリ筆者の講義をメモしてゆく。
別の氷河期世代セミナーであったことだが、赤ちゃんを連れた30代夫婦。講義中、泣く赤ちゃんを日経ホールのロビーであやす係は「イクメン」の夫。会場内で一心にメモを取り続けるのは若いママ。休憩時間中にママは授乳設備がないかと走り回る。従来の投資セミナーといえばシニア中心で、ホールの設備もトイレの数が重要視されたものだ。そのころの会場は、熱い投資意欲に満ちたおじさん達の加齢臭でむせかえるほど。それが、いまや、香水やミルクの匂いが混じる。赤ちゃん連れの氷河期世代夫婦が切々と語っていたこと。「自分たちは生まれてこのかた、いいことは何もない世代。これからもっと悪くなることは覚悟の上。でもこの赤ちゃんにそういう思いはさせたくない。この子が成人になるとき日本はどうなっているでしょうか。この際、家族で海外脱出も考えるべきでしょうか」
さて、話を昨晩の女子会勉強会に戻そう。
そこで、なぜ「金」なのか。
老後の心配ということは、30~40年という長期のスパンだ。そこで投資リターンも当然考えるが、同時に様々なリスクに耐え、長期にわたり資産価値の目減りの確率が低そうなモノという発想で「金もアリかな」と思い至るようだ。しかし、金はなにか怪しい。うさんくさい。果たして大丈夫なのか。その確証を求めて、平日夜7時の丸の内集合という働く者にはキビシイ時間設定にもかかわらず、応募者の9割が出席したわけだ。
中には、外資系金融機関所属とおぼしき女性。今日は個人的な資産運用を考え出席した。さらに明日、同じ丸の内で筆者が講演する外国通信社主催の機関投資家向けセミナーにも参加するという。これは、仕事上のポートフォリオのアロケーション(配分)を考えてのこと、と割り切っていた。
あらかじめ質問項目を紙に書いてもらい、筆者がそれに答えるという、台本なし、ぶっつけ本番のぶっちゃけ本音形式。最初の質問は「豊島の個人的資産運用を知りたい」。次に「日本国債は大丈夫か」、さらに「2012年、米国、欧州、中国の経済リスクは?」などなど多岐にわたる。筆者が自らの失敗体験を語り、プロでもこんなもんさ、と言うと会場には、なにやらなごやかな安堵感が流れたものだ。
金はインカム・ゲインが無いのだから、資産運用では脇役。主役は、何かを生み出す生産的な投資=株、債券。金の優れているところは価値保全機能だ。だから金は守りの投資。攻めが株。金をポートフォリオの10%程度積み立て長期保有して、それが役立たないのが実は一番良いシナリオという筆者の言葉に納得したコツコツ系女子たちであった。
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
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