アップル王国、求心力どう維持 ジョブズ氏辞任で転機
【シリコンバレー=岡田信行】米アップルは24日、病気休養中のスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO、56)が同日付で辞任し、ティム・クック最高執行責任者(COO、50)が昇格したと発表した。「アップルCEOとしての職務遂行が難しくなった」ためで、ジョブズ氏は会長として経営に関与するが、カリスマ経営者の辞任でアップルは求心力をどう維持するかが課題となる。
ジョブズ氏は24日、取締役会に辞表を提出、承認された。アップルはジョブズ氏が取締役会と社員に宛てた手紙を公開。その中でジョブズ氏は「CEOとして業務遂行が難しくなった場合には速やかに伝えると常々申し上げてきた。残念ながら、その日が来た」と言及。健康悪化が辞任理由であることを示唆した。
ジョブズ氏は今年1月病気休養を発表。日常業務はクック氏に任せてきた。同氏は新製品発表会で聴衆を魅了するジョブズ氏に比べ目立たないが、決算発表や株主総会には必ず登場。「アップルを実際に動かしているのはクック氏」(同社幹部)とも言われてきた。
ただ、ジョブズ氏が復帰するシナリオを前提としてCEO代行を務めるのと、ジョブズ氏辞任後の後継CEOとなるのとでは意味合いが違ってくる。ジョブズ氏のCEO辞任発表後、24日の米株式市場の時間外取引でアップル株式は一時、同日終値に比べて7%近く値下がりした。
ジョブズ氏の病状がどの程度深刻なのかは不明だ。ただ、スマートフォン(高機能携帯電話)の「iPhone(アイフォーン)」やタブレット(多機能携帯端末)の「iPad(アイパッド)」などがヒットして業績が快走する中、ジョブズ氏の健康問題が「唯一の懸念材料」(証券アナリスト)とされてきた。
クック新体制は、カリスマ的経営者の辞任後、求心力の空白をどう埋めるのか。「元々ジョブズ氏がすべて1人でやっていたわけではない」(アップル幹部)としても、アップルがジョブズ氏の話術や個性に頼って拡大してきたのも事実。世界で最も価値あるIT企業が創業35年で大きな試練の時を迎えている。
ジョブズ氏の辞任は、IT(情報技術)業界の勢力図にも影響を与えることは確かだ。パソコン需要が鈍化し、スマートフォンやタブレットがIT機器の主役に踊り出たことで、IT業界は転換点を迎えている。
ジョブズ氏は、経営陣の内部対立で1985年にいったん退社したが、97年には経営不振に陥ったアップルのトップに復帰。その後は、携帯音楽プレーヤー「iPod」など次々にヒット商品を出すとともに、音楽や映画の配信も組み合わせた「ハードとソフトの融合ビジネス」でも成功例を打ち立てた。コンテンツ(情報の内容)を配信・管理するソフト「iTunes(アイチューンズ)」を中核に機器をつなげ、ユーザーを囲い込んで独自の城を築き上げた。
2011年4~6月期決算では、売上高が前年同期比82%増の285億7100万ドル、純利益が同2.2倍の73億800万ドルと過去最高を更新。好業績を背景に、株式の時価総額では、資源大手エクソンモービルを一時抜いて米企業首位に立った。