イラク、武装勢力が首都に迫る マリキ政権は深刻な危機
【ドバイ=久門武史】イラク第2の都市モスルを掌握した武装勢力は同国北部で支配地域を広げて南進し、11日、首都バグダッド北方の要衝ティクリートに進撃した。国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が主体となった攻勢を政府は阻止できずにいる。機能不全と治安維持力の低下を露呈したマリキ政権は深刻な危機に直面している。
ティクリートはバグダッドから約150キロメートル北方にあり、サラハディン州の州都。イラク戦争で米軍に打倒されたフセイン元大統領の故郷でもある。ISILはモスルを州都とするニナワ州を掌握したうえで、キルクーク油田があるタミム州の一部にも入った。
ロイター通信によると、イラク最大の製油所があるバイジにも侵攻した。油田や製油所が武装勢力の手に落ちれば、イラク経済の柱である原油の生産と輸出に打撃を与えかねない。
ISILはツイッターで、ニナワ州への道路を「完全な管理下」に置いたと表明し、今後も戦闘を続けると宣言した。AFP通信が伝えた。
国際移住機関(IOM)は11日、モスルから50万人以上が避難したと推定されると発表した。暴力行為から逃れるためとみられ、国連の潘基文事務総長は報道官を通じ「深刻な懸念」を示した。
武装勢力は同日、在モスルのトルコ総領事館を襲撃し、同国メディアによると総領事らトルコ人48人を拘束した。
米国務省のサキ報道官は10日、モスルの陥落について「状況は極めて深刻だ」と述べ、マリキ政権を全面支援する考えを表明した。
マリキ首相は11日の記者会見で、ISILの攻勢を陰謀に基づくと断じ、持ち場を放棄した兵士を処罰すると強調した。「我々は態勢を再構築している」とも述べ、国民に団結を呼び掛けた。
イラクでは2011年に米軍が撤退した後、イスラム教シーア派とスンニ派の対立を背景に治安が悪化している。少数派のスンニ派にはシーア派中心のマリキ政権に不満が強い。ISILはスンニ派住民の多い地域に浸透しており、首相が国民に訴えた抵抗に呼応する動きは乏しい。
ISILは1月から中西部アンバル州で要衝のファルージャなどを占拠し、治安部隊は掃討に失敗を重ねてきた。北部の州まで掌握されたことは政府の弱体化を改めて示す。マリキ首相は治安対策を担う内相を自ら兼務してきた。治安部隊の腐敗を指摘する声もある。
政治の機能不全も目立つ。マリキ首相は10日、連邦議会に非常事態を宣言するよう要請した。しかし首相と対立するスンニ派系会派が、首相に強力な権限を与えることに直ちに同意するかは不透明だ。4月の議会選では首相が率いる政党連合が勝利したが、首相続投への反発は他のシーア派会派からも強い。