原発に活断層ドミノ 「変動地形学」でクロ判定(真相深層)
原子力規制委員会の評価会合が、日本原子力発電敦賀原子力発電所(福井県)に続き東北電力東通原発(青森県)でも活断層の「クロ判定」を下した。電力会社が問題ないと主張し続けたにもかかわらず、規制委が現地調査をすれば活断層が見つかるという異常事態。その理論的な裏付けとなっているのが、判定に新たに持ち込まれた「変動地形学」だ。
■全国で2000以上
「変動地形の立場から断層が動いたと思われる地形が多数、見つかった」(熊木洋太専修大学教授)。「変動地形学の人なら誰もが気になる活断層地形が2カ所ある」(金田平太郎千葉大学准教授)。東通原発の評価会合では「変動地形」という言葉が飛び交った。
地層のずれである活断層は主に地下に隠れており、断層面が地表にまで到達し露出するケースはまれだ。伝統的な地質学の手法では、あたりを付けて地中深く溝を掘ったり掘削したりと、苦労して活断層を見つける。
これに対し変動地形学の手法では地下の断層の活動によって造られた地面の起伏(変動地形)やゆがみに注目する。航空写真や地表の調査などから地下の活断層を見付け出す。産業技術総合研究所活断層評価研究チームの吉岡敏和チーム長は「いずれも大地の成り立ちを探る学問だが、地質学が地下をみるのに対し、変動地形学は地表をみるため新しい時代の情報を得やすい」と解説する。
1995年の阪神大震災以降、活断層と地震との関連が注目されるようになり、変動地形学を活用して日本列島で活断層を洗い出す作業が本格化した。これまで見つかった活断層の数は全国で2千を超すといわれる。
活断層探しで重宝されるようになった変動地形学だが、電力業界と原子力規制当局はその流れに乗らなかった。地表面を扱うため、穴を掘って地下深くを調べる地質学的な手法と比べるとデータを得やすい。その分、活断層が見つかりやすく、リスクを小さく見積もりたい人にとっては厄介な存在となった。
旧原子力安全・保安院は原発の耐震指針を2006年に改定したが、新指針を定める審議会のメンバーに変動地形学の専門家は一人もいなかった。電力会社も独自の調査を変動地形学者に依頼することを避けた。
■「拙速」と批判
今年9月の規制委発足とともに状況は一変した。変動地形学の専門家が積極登用された。敦賀原発でも東通原発でも調査団5人のうち2~3人が変動地形学の専門家。その結果、今の「活断層ドミノ」が起きた。
電力会社側は変動地形学を軸にした評価を「拙速だ」と批判する。「変動地形学的見地からの可能性だけの立論による結論は理解に苦しむところであります」。活断層ではないとの主張が無視された格好となった日本原電は納得せず、11日に公開質問状を規制委に持ち込んだ。規制委を訪れた増田博副社長は「変動地形学だけで話をされていた」とかみついた。
航空写真や地形から地下の活断層を推定する手法は、土壌の試料を分析して活断層を断定するような自然科学的な厳密さには欠ける。10日の評価会合でも、ある専門家は「変位があるようにもみえ、ないようにもみえる。判断が難しい場合は活断層と考えるべきだろう」。変動地形学は活断層そのものというよりは「可能性」をあぶり出す。
東京電力福島第1原子力発電所の事故以降、日本人の原発に対する安全性への考え方は一変した。規制委の田中俊一委員長は「(活断層の可能性が)クロか濃いグレーなら止めてもらうことをお願いする」と言い切る。活断層の可能性が浮上した原発は、改修などをしない限り再稼働は認めない方針を示している。
「活断層ではないという証拠を示さないと、活断層である可能性を否定することにはならない」。26日の評価会合で規制委の島崎邦彦委員長代理は、今なお活断層ではないと譲らない東北電力の主張を一蹴した。
敷地内にあるすべての地層のずれについて、活断層ではないと証明することは極めて困難な作業だ。電力会社にとっては厳しい情勢が続く。(科学技術部 古谷茂久)
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