地価上昇地区、全国の過半数に 大都市で回復鮮明
国交省4月調査
地価の回復傾向が広がってきた。国土交通省が29日発表した4月時点の地価動向報告によると、全国150地区の53%に当たる80地区が3カ月前に比べて上昇した。上昇は1月時点から29地区増え、現行調査が始まった2008年10月以降、初めて半数を超えた。大都市圏の商業地の上昇が目立ったほか、住宅地も堅調だった。
再開発意欲高く
調査は全国の主な商業地と住宅地で3カ月ごとに実施。地価調査の中では速報性が高い。国交省は今回の結果を「従来の下落基調から上昇・横ばい基調への転換が広範に見られる」と分析。安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」がオフィス需要や住宅投資回復への期待を生んだ形だ。
回復が鮮明なのは商業地(106地区)だ。上昇は54地区と前回から23地区増えた。集客力の見込める商業施設周辺の地価が上昇しており、とうきょうスカイツリー駅周辺(東京・墨田)と、超高層複合ビル「あべのハルカス」を建設中の阿倍野(大阪市)は上昇率が3%を超えた。
オフィスビルの需要増を受け、横ばいが続いた丸の内(東京・千代田)や大手町(同)の地価も上昇に転じた。中規模ビルの多い八重洲・京橋地区でも再開発の機運が高まり、投資を呼び込んでいる。住友不動産は東京・八重洲の老舗ホテル「八重洲富士屋ホテル」(東京・中央)の土地・建物を国際興業(東京・中央)から取得。再開発を含め活用策を検討する。
住宅地(44地区)も上昇が26地区と前回から6地区増えた。南青山(東京・港)や高輪(同)、代官山(東京・渋谷)など都心の高級住宅街の地価が横ばいから上昇に転じた。14年4月の消費増税をにらんだ住宅の駆け込み購入の動きも地価を押し上げている。
三菱地所はアベノミクス効果で東京都心の高額マンションの販売が好調。港区の高級住宅地や中央区の湾岸エリアで用地取得を進める方針だ。三井不動産は「土地の入札への参加者が増え、競争は厳しくなっている。(値がつり上がりやすい入札より)土地所有者との相対取引での仕入れを増やす」としている。
地方はばらつき残る
地域別でみると、東京、大阪、名古屋の三大都市圏で上昇地区の割合が軒並み5割以上になった一方、地方圏は34%にとどまる。天神(福岡市)や那覇新都心(那覇市)などが上昇に転じたが、東北の被災3県では仙台市の一部を除き、なお地価が下落基調にある。
今後の地価動向について、第一生命経済研究所の鈴木将之副主任エコノミストは「円安を追い風に国内景気の回復が続き、地価も当面は上向き傾向」とみる。ただ最近の地価上昇は投資マネーの流入が演出している面もあり、足元では長期金利の上昇や株式相場の調整など逆風も吹く。
実際に消費者の所得が増えてこなければ、用地取得費の上昇分をマンションなどの販売価格に転嫁することは難しく、不動産業者にとっては頭が痛い状況だ。持続的な地価上昇には企業業績や雇用・賃金の回復で、企業や個人の「実需」が盛り上がる必要がある。