新OS、iPhone導入…ドコモ社長に聞く戦略
ジャーナリスト 石川 温
2月25日にスペイン・バルセロナで開幕した世界最大級の移動体関連展示会「Mobile World Congress(MWC)2013」。開催初日の基調講演に、NTTドコモの加藤薫社長が登壇した。これまでのドコモの取り組みを紹介しながら、コンテンツ販売やヘルスケア事業で新しく1兆円の売り上げを目指すことをアピールした加藤社長。基調講演後に、新OS(基本ソフト)やiPhone導入計画など、今後のスマートフォン(スマホ)戦略について話を聞いた。
冬以降、次々に出たヒット商品
昨年末の冬商戦以降、NTTドコモからヒット商品と呼べる端末が相次いで登場してきた。シャープの「AQUOS PHONE ZETA」は同社のディスプレー技術「IGZO」を搭載し、「バッテリーが2日間持つ」という触れ込みが受け、発売2カ月で44万台の売れ行きとなった。2月9日に発売となったソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia Z」も、デザイン性の高さなどが受けて、売れ行きは絶好調だ。
「春商戦ではXperia Zだけでなく、冬商戦に発売したAQUOS PHONE ZETAも引き続き売れている。シャープでは、ピカピカ光るやつ(筆者注、『AQUOS PHONE EX』)も売れている。これから(富士通の)ARROWS Xなども出てくるので期待できそうだ」(加藤社長)
日本メーカーは、Androidスマホの発売当初から1年ぐらいまでは、海外メーカーに品質面で出遅れた感があった。しかし最近では「性能、品質、デザインで日本メーカーも良くなってきた」(加藤社長)。消費者が欲しいと思い、満足度の高い端末が増えてきた。
端末ラインアップの絞り込みに着手
一方でNTTドコモは、端末ラインアップの絞り込みに着手している。これまでは機種が多すぎて消費者が選びにくい側面もあったため、種類を減らしていく計画という。決断に至った背景について、加藤社長は「(他社には)iPhoneがあり、そこに追いつくためには数がないと選べなかった。1シーズンで18種類をそろえた時期もあったが、(iPhoneを)スペックで超えている機種もある。特長のあるものも増えてきた。今後はできるだけ特長のあるもの、売れ筋のものにしぼってそろえていけたらいい」という。
本格的には2013年の冬商戦から絞り込みを始めるというが、夏商戦でも工夫を始めていく意向だ。
ここ最近のスマホのトレンドを見ると、スペックは「クアッドコア、5インチ、フルHD」が当たり前のものになり、その先の進化が見えにくくなっている。NTTドコモは今後、メーカーにどのようなスマホを期待しているのか。
加藤社長は「とにかくいい製品を作ってもらいたい」と言う。iPhoneに勝てる製品を作るのは難しいかもしれないが、特長がある製品をメーカー各社に期待している。「原点に帰って、電池寿命はとことん追求して、もっと長持ちするスマホを作りたい。バッテリー寿命を改善する革新的な技術はまだないが、回路を作り替え、電池を大きくしたり消費電力を抑えたりして努力していく。いずれどこかでブレークスルーがあるのではないか」(加藤社長)
第3のOSでは「Tizen」を選択
今年のMWCで話題となったのが「第3のOS」だ。KDDIは、チャイナユニコム、独Tモバイル、イタリアテレコム、米スプリント、韓国のKT、スペインのテレフォニカなどと、インターネットブラウザーで有名な米モジラの「FirefoxOS」を搭載した端末を2014年に発売する計画を明らかにした。Webページ作成の次世代言語「HTML5」をベースにして、オープンで自由な開発環境が魅力とされている。
NTTドコモが担ごうとしているのが韓国サムスン電子などが主体的に開発している「Tizen(タイゼン)」だ。これもHTML5ベースで、携帯電話会社やメーカーの意向に沿ったスマホ向けプラットフォームとして期待されている。
NTTドコモがTizenに注力し始めた理由について加藤社長は「(ラインアップが)Androidだけで大丈夫なのかと考え、(Tizenを)視野に入れている」と語る。
国内で競合するKDDIやソフトバンクモバイルにはAndroidだけでなく、iPhoneがある。NTTドコモにも「BlackBerry(ブラックベリー)」があったが、新モデルでは日本語対応がままならず、日本での展開は難しい。そんななかでNTTドコモはTizenに注目しているという。
Tizenの具体的な展開や方向性については、バルセロナ時間の26日夜の記者向けイベントで明らかになる予定。日本のメーカーのうちNECカシオモバイルコミュニケーションズやパナソニックモバイルコミュニケーションズ、富士通などがTizenの参加企業として名を連ねている。加藤社長に日本メーカー製のTizen端末の採用について聞くと「(Androidと比べて)どれくらいの割合になるのか、製品がいつ出てくるかなどは、見極めが必要な段階」と言葉を濁した。
気になる「iPhone導入」を直撃
最後にネット上で何度も話題に上る"NTTドコモのiPhone導入"について聞いてみた。一部では「すでに導入は決定済みだ」と報じるところもあるが、真相はどうなのか。
ずばり「アップルと交渉は進んでいるのか」という質問に対して、加藤社長は「ノーノー。何をおっしゃっているんですか」と交渉の事実を否定しつつ、iPhoneに対する見方を語った。
「(iPhone導入で)劇的に変わるかというと、(他社と)互角になると思う。その時が本当の勝負になる」「端末の販売総数では他社に負けていないが、MNP(番号持ち運び制度を使った転入出)で負けている。日本と米国は(iPhoneにとって)特別な市場で、韓国は『否』、欧州も『否』という感じ」「iPhoneはいい端末だと思いますけどねぇ。ただしiPhoneを導入して、(ドコモの総販売台数の)7~8割も売れちゃったら『俺たち、今まで何をやっていたんだ』ということにもなりますしね」――。
この答えを聞く限り、「ドコモでiPhone」はまだ先の話になりそうだが、実際はどうなのか。しばらくは予断を許さない。
月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著は、本連載を基にした「iPhone5で始まる! スマホ最終戦争―『モバイルの達人』が見た最前線」。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/channel/226)を配信中。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226
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