「1カ月1万円」の胸算用 発信力、続く試行錯誤
ネット選挙 ルポ最前線(下)

参院選まで1カ月となった6月中旬、それまでひっきりなしに東京・永田町の議員会館事務所に持ち込まれていた「ネット選挙に困っていませんか」「ネット選挙はお任せを」とのIT関連企業からの売り込みがぱたりと止まった。公示日が近づき、ほとんどの事務所にゆきわたってもう需要はない、と企業側は判断したとみられる。
3分の1まで値下がり
着手料10万円、月々の運用費用は1万円、年間で12万円。ウェブサイトやフェイスブックなどにかかる経費の相場は6月下旬の段階で、こんな感じだとある事務所は明かす。ネット選挙は参院選の後、自治体選挙、来るべき衆院選にも適用される。「皆がやるなら、今からやっておかないと」と考えた衆院議員の事務所も多い。2、3カ月前までは「月3万円」が相場だったというが、競争過多か、3分の1にまで値段は下がった。
企業側にとっては「価格はともかく、国会議員のネット選挙を担当すれば実績になり、今後のビジネスに大きい」。個人事務所に比べると経費をかけられる党本部レベルになれば、ビジネスとして成り立つ計算もある。
初めてフェイスブック、ツイッターなどSNSを始めた自民党中堅の事務所は「いいね!ボタンの反応も乏しいし、フォロワーも選挙区の人なのか違うのか、よくわからない」と、なお戸惑いが大きい。
掲示板の「炎上」やなりすまし、中傷対策など予防に各党は力を入れ、議員事務所にも指導してきた。だが今のところ聞こえてくるのは「反応が乏しい」と拍子抜けした声だ。
ほとんど押されぬ「いいね!」
ネットに関する製作・運営を企業に委託した事務所は「他の事務所で、ITに詳しい若い職員がいるところは、自前でつくっている。もったいなかった」。フェイスブックの「いいね!」ボタンも、ほとんど押されていない。
日本のネット政治で目立つのはウェブ、フェイスブック、LINEまで活用する安倍晋三首相や、ツイッターで一日に何度もつぶやいて話題となる日本維新の会の橋下徹共同代表ら、ほんのひと握りの政治家たちだ。ネットで話題になるから、フォロワーや閲覧者も集まり、さらに拡散される。
一方で、まったくネットでは発信しない自民党の小泉進次郎氏のようなやり方もある。小泉氏の父、純一郎元首相は在任期間中、携帯電話さえも持ち歩かなかった。
いずれの手法も、すでに政治家個人にかなりの知名度がある場合に限って有効だ。「街頭宣伝や集会の場所を手軽に、お金をかけずに告知できて便利なはず」と経費削減に役立つと期待する向きも多いが、まずは見にきてもらい、フォローしてもらわなければならない。
西日本で今回、ネットに取り組んだ衆院議員の事務所は「ウエブやSNSで場所を知らせることは考えていない」と語る。都市部でない選挙だと、郵便のお知らせでさえ「なぜ直接、足を運んでこないんだ」と支持者からの不満が届く。「両方やるのが理想だが、なかなかそこまでは行き届かない」。事務所の人員、経費には限りがある。
ほとんどの国会議員や候補、自治体議員は「安倍型」と「小泉型」の中間地帯にいて、試行錯誤が続く。ネット選挙は4日、本番を迎える。