忍者屋敷に宇宙船…驚きのオフィスが働き方変えた?
忍者がお出迎え!?
東京都渋谷区のビル内に突如として現れた忍者屋敷。ここはれっきとした会社で、ウェブサイトのアクセスログ解析やブログサービスを手掛ける「サムライファクトリー」。案内された日本家屋風の一室で人生初の忍者との名刺交換。さっそく仕事の様子を聞いてみた。
――その格好で働いているんですか?
忍者 はい。取引先から要望があればこの格好で伺います。電車もこのまま乗るので外国人の方には記念写真を求められることも多いんですよ。
――忍者服はどうしたんですか?
忍者 会社が用意してくれました。
――この巻物は?
忍者 会社案内です。3種類あります。差し上げますよ。
――壁には手裏剣が刺さっていますが?
忍者 来た人は手裏剣を投げることもできるんです。やってみますか?
――この部屋は何に使っているんですか?
忍者 主に来社された方との商談スペースですが、空いていれば社員同士の会議にも利用します。
2009年、渋谷にオフィスを移転する際に今の内装に変更。「社名にもあるが日本企業としてのこだわりを表現したかった。また社員には非日常の空間で気分転換しながら働いてもらいたい」と茨木恭介取締役は理由をこう話してくれた。ただ業務スペースは普通の内装という。
忍者の一人、営業企画担当の中原卓馬さん(35)は同社のオフィスや仕事内容に関心を持ち入社。「忍者服は勝負服。着ると気合が入ります」と今ではすっかり板についた立ち振る舞いだ。驚きと新発見に満足し、最後に記念写真をパチリ。次の会社へ向かう記者の足取りは、心なしか忍び足……。
机の形が会話を生み出す
次に訪れたのはアニメなどのイラストの投稿や閲覧が楽しめる交流サイト(SNS)を運営する「ピクシブ」(東京都渋谷区)。全長250メートルの波打つ形状の机がオフィスを縦断している。どこから入ればいいのか一瞬、戸惑うほど。オフィスの机が全てつながっているため、出入りするにはフロアを半周する必要がある。
一見、不便に見える作りにも社内の雰囲気作りと仕事の効率性を上げる仕組みが隠されていた。「机が全てつながっているので同僚の仕事に目がいき、声が掛けやすい。自然と会話が生まれる環境でこそ新しいアイデアが出る」と片桐孝憲社長。今年5月にこの内装に変更した。「会話が増え、社内の雰囲気が明るくなった」と社員が話すように、ひとつなぎの机が働き方を変えるきっかけとなっている。
またエントランスは約3000枚の絵馬が壁中に貼られ、まるでトンネルのよう。来社した人が記念に書き込めるようになっている。こうした社外の人とのコミュニケーションを大切にする姿勢はSNSサービスを提供する同社ならではのものだろう。
まるで宇宙船
一歩足を踏み入れると壁全面から光の筋が流れ出した。まるで宇宙空間に迷い込んだような錯覚に。東京都港区の六本木ヒルズにオフィスを構える「クルーズ」の通路だ。ソーシャルゲームの開発会社で、エンターテインメント企業として来訪者に楽しんでもらう内装を考えたという。エントランスにも仕掛けがある。受付の椅子は宇宙船のコックピットを意識したデザイン。薄暗い中、大音量とともに流れるゲームの映像……。"コックピット"に座るとまるでゲームの中にいるかのような疑似体験が味わえた。
社員が働きやすい環境整備に経営者も努力を惜しまない。3カ月に1度、社長らが社員と面談し、オフィスの改善点についての聞き取り調査を行っている。その成果が着実に実っている。ここ2年で社員数が約5倍にもなった同社では、就職を希望する学生から驚きと期待を込めた声が返ってくるという。「テーマパークみたい。こんなオフィスで働きたい!」。オフィスが社員のモチベーションアップにつながるだけでなく、就職を希望する学生を呼び込む要素にもなっている。
ノマドワ―カーやシェアオフィスなど働き方や働く場所の変化が著しい中、オフィスに工夫を凝らす企業が増えている。それは単純な遊び心にとどまらず、数字には表しにくいが仕事への効率性と企業価値を高める有効な資源として注目されている。
(写真部 山本博文)