経済再建に東北への企業進出を期待(震災取材ブログ特別編)
東北 明日へ挑む 移転に揺れる(4)
「初めて宮城県南三陸町へ来たときは何もできず、ただぼうぜんと被災した町を見るだけだった」。木製ノベルティーグッズを製造するフロンティアジャパン(東京・江東)の額賀泰尾社長は、2011年5月に初めて町を訪れたときの様子をこう振り返る。
広島県尾道市に本社を置く造船会社、ツネイシクラフト&ファシリティーズの神原潤社長も同様の経験をした。11年4月、ワンボックス車に工具やスコップなどを積み込み、社員と一緒に2日かけて岩手県の沿岸部に向かった。だが現地は「『何か手伝うことはありませんか』という言葉さえかけられない状況だった」。
想像を超える被害の大きさに2人とも最初は「被災地に工場をつくることなど考えられなかった」と話す。だがフロンティアジャパンは今年4月、南三陸町に加工工場を開設。ツネイシクラフト&ファシリティーズも同年5月、岩手県山田町に小型アルミ船の造船と修理の工場を着工した。
2社とも震災前は被災地と直接のつながりはなかったが「被災地のために自分たちにできることはないか」との強い思いが工場進出を実現させた。
2人の社長は工場開設を決断しただけではない。額賀社長は南三陸町の旅館の1室を借りて、月の大半を同町で過ごし、東京へは2、3日ほどしか戻らないという。神原社長も約1500キロ離れた本社と山田町の間を去年は月2、3回、今年も月1回程度往復する。飛行機や新幹線、バスを乗り継いで片道2日間の行程だ。
2社が進出を決めたのは単純な支援だけではなく、事業として成り立つと判断したためだ。東北には良質な労働力が豊富にあるなど潜在力は十分だが、震災前から沿岸部では経済が低迷し若者の流出が続いていた。震災で働く場を失った人も多い。進出企業が増えれば雇用創出につながり、中長期にわたって経済再建を支えることになる。今後も進出企業が増えていくことを期待したい。
(水庫弘貴)