司法試験は通ったけれど…修習生、就職・独立厳しく
新司法試験の合格者が9日発表された。合格率25%の難関をくぐり抜けた2074人の合格者。今後1年間、司法修習生として実務経験を積んだ後、多くは弁護士として活動することになる。華やかなイメージで語られがちな弁護士だが、法曹人口の急激な増加などで就職環境は年々悪化。合格に歓喜の声を上げたのもつかの間、再び限られた弁護士事務所の採用枠をめぐる競争が待ち受けている。
1時間待ち
8月下旬の休日、日本弁護士連合会が司法修習生、つまり今年の合格者の1年先輩を対象に相談会を開催した。
相談会は弁護士事務所に就職しないまま、来春の独立を考えている修習生に先輩弁護士がアドバイスするという内容だ。「そんなに人は集まらないかも知れないけれど、参考になるかも」と日弁連幹部。東京・新橋の会場はその言葉とは裏腹に熱気が充満していた。
5つあった相談ブースは上下スーツ姿の修習生ですぐに埋まり、順番待ちは1時間以上に。最終的に参加者は50人にのぼり、さながら就職相談に詰めかける就職氷河期の大学生の様相を呈していた。
履歴書100枚
即時独立といっても積極的な修習生は限られている。多くは就職先が見つからず、やむなく自宅などを事務所に独立を検討している消極派だ。
「実務経験のないまま開業するのは不安があるが、就職先が見つからない」。昨年の司法試験に合格した司法修習生の男性(34)は、約100カ所の弁護士事務所に履歴書を送付。面接にこぎ着けたのは約10カ所だけで、結果もすべて不採用だった。
修習期間が終わる11月末までに就職が決まらなければ、最初から1人で開業することも考えている。「かつては大手事務所を目指したが、もうぜいたくは言えない。一般の事務所で構わないのだが」と話す。
別の男性(34)は年齢がネックと指摘。「30歳を超えると司法試験の成績が上位でないと就職は厳しい。修習所の勉強もしなければいけないので、就職活動を早く切り上げたいのだが」と困惑する。
「ソクドク」
従来の新米弁護士は、先輩らの手厚い保護下にあった。経験を積んだベテラン弁護士の事務所に「イソ弁(居候の弁護士)」として就職し、事務所が受任した事件を先輩とともに引き受けて給料をもらいながら経験を積む。弁護士業務に慣れ、開業資金や顧客獲得のメドがついた段階で、独立するというパターンが一般的だった。
ところが、弁護士事務所の数や規模がそれほど変わらないまま法曹人口が急激に増えたことで、事務所への就職すらままならない弁護士が増加。デスクや電話を借りられるが、事務所から仕事や給料はもらえない「ノキ弁(軒先の弁護士)」や、自宅などを事務所としていきなり開業する「即独(即時独立)=ソクドク」が目立ち始めた。
日弁連によると、修習後、即時独立した弁護士は一昨年は38人、昨年は58人。今の修習生のうち、7月末時点で弁護士事務所の内定を得ていないのは約35%と、昨年から11ポイント増え「厳しい状況は今後も変わらない」(担当者)という。
今回の相談会にアドバイス役として参加した弁護士は「競争の激化で周囲の若手の収入も減少している。数年前に比べても独立する環境は厳しくなっている」と指摘。有望な将来が約束された「司法試験合格」という栄冠は、その後の厳しいハードルの第1段階になりつつあるのかもしれない。
(社会部 岩村高信)