役員登記は「真保(鳥海)」、野村信託銀行社長の思い
旧姓・新姓、規則改正で併記可能に
――仕事では旧姓を使ってきたのに、社長就任時に戸籍名(新姓)の「真保」を名乗り始めました。
「社長就任時に、登記は戸籍名にしても旧姓を使い続ける選択肢はあったと思いますが、取引などで顧客に登記簿を求められた時に一致しないのは良くないと考えました。ただ名刺は『真保(鳥海)智絵』と併記し続け、渡した相手に聞かれると事情を説明して応援をお願いしていました」
「実はそれ以前にも役職柄、子会社の取締役を兼務していたことがあり、『真保』となっていたので、社内で『これ誰?』ということは発生していました。ただ対外的に使う機会がそうありませんでした。昨年の社長就任の際は対外的な発表時点から『真保』で、また社内でも『誰?』と。私とわかってからは『離婚したの?』という問い合わせが結構ありました。大概女性に起こることですが、一般的にみて、名前が変わると面白おかしく臆測されます。無用なことで色々な思いをすることは避けられた方がいいのではないかと、その時に思いました」
――それから1年足らずで、このほど、商業登記規則の改正で旧姓が併記できるようになりました。
「規則の改正は思ったより早く、ちょっとびっくりしました。なぜ旧姓だけでなく併記かという点はありますが、長く使えば使うほど戻すのが大変なので、現実的なところで早く変わっただけ良しと思います。実務的に影響の出ない範囲で、旧姓の鳥海に戻そうと思っています。名刺や広報などの併記の仕方も『鳥海(真保)』と逆にし始めました」
「最近は日本の企業でも社外取締役などに女性が増えて、株主総会の招集通知で戸籍名と併記されているというように顕在化してきています。周囲も『あなただけではなかったのだ』と我が事と感じるようになってきたようです」
――結婚後も仕事で旧姓を使ってきたのはどうしてですか?
「米国留学から戻った1996年に結婚し、2年間いなかった上に姓が変わったら、私が社内のどこにいるかわからなくなってしまうのではと思いました。それまでの5、6年積み上げた仕事の実績が分断される恐怖感もありました。当時は制度もなく、なし崩しでそのまま旧姓を使っていました」
「その後、会社が旧姓使用を認めなかった時期がありました。顧客に本人確認書類をお願いする側としてどうなのかということだったのだと思います。当時、外に出るような部署ではなかったので、混乱を来すことはなかったですが、周りにも旧姓を使いたいという人が多く、会社と交渉して、2006年に旧姓使用を届け出ればオフィシャルに使えるようになりました」
――旧姓を使っていて不便などはありましたか。
「会社の人が海外出張のホテルを旧姓で手配して、パスポートの名前と違うといったことはありました。逆に、旧姓使用が認められなかった時期に、メールアドレスも変わった時には『急にメールが届かなくなった』と言われたこともありました」
――選択的夫婦別姓制度はどう思いますか。
「選択肢があった方がいいと思いますが、自分は戸籍上は今から旧姓に戻さないと思います。相手との相談もありますし」
(女性面編集長 橋本圭子)
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