いでよ未来のITスター 電子工作に子どもたち夢中
趣味などでものづくりをする「メイカーズムーブメント」が着実に広がりつつある。本格的な製品開発にも応用できるマイコン搭載基板が簡単に入手でき、プログラミング言語も手軽に学べるようになったためだ。半導体商社のマクニカが工作キットの販売に乗り出すなど、「電子工作」は趣味の世界にとどまらない。子どもたちにロボットのプログラミングを体験させる試みも始まった。
モーターやセンサーの動作をプログラミング
「あれ、おかしいなぁ」――。子どもたちがブロックで作ったロボットに、ゴルフのスイングの動きをさせようと試行錯誤していた。
首都圏で子どものためのプログラミング教室を展開するTENTO(埼玉県川口市)は2014年末、生徒を対象にロボットのプログラミングを体験する特別講座を開催した。学校用教材を手掛けるアーテック(大阪府八尾市)が「ロボティスト」と呼ぶ教材を提供した。
子どものおもちゃと侮ることなかれ。ロボットの心臓部である動作用基板は、初心者から専門家まで簡単に扱えるマイコンボード「Arduino」をベースに、モーターやセンサーなどのパーツを接続できるコネクターなどを付けた本格的なものだ。接続するモーターはプラモデルでおなじみのDCモーターだけでなく、動く角度などを細かく制御できるサーボモーターもある。さらに、光や音に反応するセンサーなどが用意されている。
それらのパーツを自在に動かすには、パソコンを使った「プログラミング」が必要だ。米マサチューセッツ工科大学が開発した教育用のプログラミング言語「スクラッチ」などが使える。命令がマンガの吹き出しのようにまとめられており、マウスを使い、それらを画面上で並べていけば一連の動作をさせるプログラムが出来上がる。
TENTOの生徒たちは通常の授業でスクラッチなどを使ってゲームなどのプログラムを開発している。しかしモノが絡んでくると、話が違う。アタマの中で思い描いた動きを実行させても、そう簡単には動いてくれない。ちょっと動かしてはブロックを作り直し、またちょっと動かしてはパソコン上でプログラムを修正する――。将来の技術者を想像させる姿だ。講座の最後にはDCモーターやセンサーを使って、障害物に触れるとピタリと動きを止めるロボットにチャレンジした生徒もいた。
こうした電子工作を支援する動きは広がりつつある。半導体商社のマクニカは、電子機器を自作するユーザーやハードウエア・ベンチャーに向けた製品の提供を14年秋から始めた。ロボット開発など手がけるベンチャー企業のユカイ工学(東京・新宿)と提携し、最先端の半導体や電子部品を工作キットの形で提供。専門技術者でなくとも電子機器を設計できるようにした。
製品シリーズの名称は「Mpression for MAKERS」。加速度や温湿度を計測できるセンサーを集積した小型基板や、近距離無線規格「ブルートゥース スマート」のモジュール(複合部品)などをラインアップしている。
ルネサスやトヨタも支援活動
ポイントは、ソフトウエア開発に特殊な言語を使用しなくとも済むことだ。ユカイ工学が開発した「konashi(コナシ)」と呼ぶツールを活用することで、スマートフォン(スマホ)のアプリ(応用ソフト)を開発するような手順で、電子機器の制御ソフトウエアを実現できる。ハードウエアおよびソフトウエア開発のハードルを下げ、利用者の裾野を広げることを目指す。
マクニカは、大手機器メーカーなどに向けた半導体や電子部品の大口契約の事業が中心だ。実際、自作用途や小規模ベンチャー向けは製品の出荷個数が少ないため、収益的には割に合わない。しかし、事業を手掛けるストラテジックマーケティング推進室の岡田裕二室長は「今、メイカーズなど『ものづくり』のムーブメントが熱い。この盛り上がりを大事にするために、製品の提供を始めた」と話す。その上で「短期的な収益を期待するというより、電子機器開発の新たなトレンドとして育てていきたい」と意気込む。
半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスも12年から電子工作の支援プログラム「がじぇっとるねさす」に取り組んでいる。14年末のコンテストでは、小学5年生が父親と考案した「シンクロナイズド・ドライビング」と呼ぶハンドル型の装置が1位に選ばれた。マイコンや加速度センサーを内蔵し、子どもが助手席などで運転の基本操作を体感できる。トヨタ自動車が昨年秋に開催したイベントでも最優秀賞に選ばれ、「製品化しませんか」とラブコールを受けたものだ。
米シリコンバレーではヒューレット・パッカード(HP)もアップルもガレージから始まった。日本での電子工作熱の高まりは未来の「メイカーズ」を生むか。
(企業報道部 松田拓也、蓬田宏樹)
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