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ラグビー日本 強豪国「ティア1」入りの舞台裏

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日本がラグビーの強豪国「ティア1」の仲間入りを果たす見通しになった。国際統括団体ワールドラグビー(WR)の会長に再選されたビル・ボーモント氏が日本ラグビー協会側に意向を伝えた。日本代表の躍進を背景にした、日本ラグビー協会の情報収集や交渉力が実った形だ。国際ラグビー界における日本の役割も大きくなる。

「一生に一度」の激戦――。4月下旬に行われたWRの会長選について、海外メディアはワールドカップ(W杯)日本大会のキャッチコピーを引用して報じた。候補者はイングランド出身の現職とアルゼンチン出身のアグスティン・ピチョット副会長の2人。加盟国や地域協会が持つ51票のうち26票を得れば当選となる。

投票最終日の4月30日、「カギを握るのは日本の票」と複数の海外メディアは報じた。各協会の票を推計するとボーモント氏24票、ピチョット氏23票となる。残り4票のうち2票を持つ日本が重要との分析だった。

最終的に、日本が支持したボーモント氏が28票を得て勝った。日本協会は正式なコメントを控えているが、決断の決め手は候補者のビジョンと日本への支援策、その実現性だったと複数の関係者は明かす。特に重視されたのが「ティア1」と呼ばれる強豪国の資格である。同氏は協議の中で日本側にその待遇を約束したという。

ティア(層)はラグビー界ならではの階級制。明確な基準はないが、ティア1は欧州6カ国対抗と南半球4カ国対抗に参加する計10カ国で構成する。ティア1は様々な恩恵に浴する。代表戦のマッチメークでは同階級の国同士で好カードを確保。選挙での影響力も大きい。ティア1勢は各3票を持つが、ティア2は日本が2票で他の7カ国は1票。残りの数十カ国は直接の投票権がない。

不平等な制度への批判は強く、同氏も3日の記者会見で「ティア2や新興国という呼び方は(任期の)4年の間になくしたい」と話した。ただ、別の話題の中で触れるにとどめ、強調はしていない。ティアの呼称が変わる可能性はあるが、構造をすぐに壊すのは難しいだろう。

代表躍進、「階級の壁」崩す

日本がティア1の待遇になれば、様々なメリットが出る。代表のマッチメークに、投票での持ち票の増加。配分される資金の増額は、新型コロナウイルスの影響で懸念される減収分を埋める助けとなる。

「階級の壁」を崩した原動力が、日本代表の躍進であるのは間違いない。昨年のW杯では1次リーグ4連勝で初の8強入り。15年大会でも3勝を挙げている。ティア1の10カ国の中に入れても遜色のない成績である。

昨年のW杯開催の成功も大きい。大入りのスタジアムに、史上最多のテレビ視聴者。過去最高規模の利益も生み出した。何より「非伝統国」で多くのファンを生み出した実績がWRでも高く評価された。

一連の流れからすると「昇格」は自然の流れでもある。選挙中、ピチョット氏の側も日本を「ティア1入り」させる意向を伝えてきたと関係者は明かす。だとすれば、重要なのは選挙の行く末を見定め、新たなリーダーからの確約を得ることだったのだろう。

「今回は日本のラグビー界にとって極めて大事な選挙だった」と協会幹部は言う。「大一番」への準備は1年近く前から進めてきた。W杯中には開催国の利を生かして多くの関係者と面談。投票の締め切り間際まで両陣営をはじめ、様々なルートで情報収集に努めている。

選挙が激戦となった理由は、ピチョット氏の奮闘にある。ティア1の基礎票はボーモント氏が欧州6カ国の計18票に対し、ピチョット氏は南半球4カ国の計12票。6票のハンディを覆すべく、同氏は積極的な選挙戦を展開した。ティア1とティア2の対戦機会の増加などの改革を訴え、各国のメディアやSNS(交流サイト)に大量に露出。昨年のW杯中には日本協会のスタッフの連絡先まで尋ねるほどの熱心さで周囲を驚かせた。

一方のボーモント氏が頼ったのは「英仏連合」だった。会長選への立候補が噂されたフランス人のベルナール・ラポルト氏が副会長候補に転身。定評のある政治力を生かし、ボーモント氏のサポートに回った。

終盤には両陣営に痛手が発覚する。ボーモント氏を支持するフィジー協会の会長に同性愛への差別行為の疑いが発覚し、突然の辞任。ピチョット氏にも、設立した企業がWRとの利益相反にあたるという批判が出た。

「寝返り」も相次いだ。ボーモント陣営に立つと公にしていたルーマニアが反対派閥に移った。逆に、アフリカ協会は地元の大国、南アフリカなどの意思に反してボーモント氏に2票を投じている。

潮目を読み、言質を取る

選挙中にはピチョット氏が勝ちそうな局面もあったというが、最終的な票数はほぼ日本の分析通りだった。刻々と変わる潮目を読み、適切な時期に適切な交渉をすることで、次期会長から言質を取ることに成功した。

選挙結果は日本の処遇以外にも様々な影響を及ぼす。例えば代表選手の資格。現在、選手は3年間住んだ国の代表になれるが、来年からは期間が5年に延びる。ピチョット氏が勝てば、資格はさらに厳格になる見通しだった。日本代表は多くの海外出身選手を抱えるだけに「ボーモントでよかった」と代表関係者は胸をなで下ろす。

一方、勝ったボーモント氏の方も代表資格の見直しに言及する。現在、2カ国の代表選手になることは特例を除いてできない。しかし、代表経験者でも自身のルーツがある国には戻れるよう、規則が緩和されるとみられる。日本のリーチ・マイケル主将が両親の出身国、フィジーやニュージーランドの代表に転じるような形である。

南太平洋のフィジーやサモアは選手の海外流出に悩む。その国の代表となり、母国に戻らぬ選手も多い。代表資格の改定は、ボーモント陣営がこの両国の票を得るための手段でもあったと海外メディアは報じる。

選手の選択肢が広がることはいいことだが、日本代表にとっては選手がそれぞれの出身国へ「逆流出」する可能性が生じる。反対に「いずれ祖国の代表に戻れるなら桜のジャージーに袖を通そう」という選手も出るだろう。

ラグビー界には伝統の重視など独特の美点は多い。ただ、ピチョット氏の善戦は改革の必要性も示す。マッチメークの不利などはティア2の日本が苦しんできた"差別"でもある。改善はされているが、選手やファンにとってよりよいスポーツにする速度を上げる必要がある。

しかし、今回のように世界が二分されたままでは、必要な改革への足かせになりかねない。会長選でキャスチングボートを握り、「強豪国」となる日本の役割も大きくなる。「これからは第三極としての存在感を出せるようにしていかないといけない」と協会関係者は話す。

15年のW杯、南アフリカ戦の金星から日本代表の躍進は始まった。今回の大一番の"勝利"を、今度は国際政治の場で飛躍するための足がかりにできるか。

(谷口誠)

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