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花園ラグビー場、サッカークラブが運営参画で岐路に

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「高校ラグビーの聖地」と呼ばれる大阪府の東大阪市花園ラグビー場を、サッカークラブなどが運営することになった。施設の活用の幅が広がると期待される一方、「ラグビーの試合が開催しにくくなるのでは」という懸念の声もあがっている。花園はこれからも「聖地」であり続けられるか。

指定管理者に「FC大阪」連合

ラグビー場を所有する東大阪市は昨秋、ラグビー場一帯の指定管理者を募集し、4月10日に候補となる団体を発表した。選ばれたのは日本フットボールリーグ(JFL)所属のサッカークラブ「FC大阪」と、スポーツ施設運営の東大阪スタジアム(同市)の事業連合だった。正式決定すれば、今年10月から約20年間、ラグビー場やその周囲の公園を一括管理することになる。日本ラグビー協会は人材派遣会社などと組んで応募したが、落選した。

花園は国内初のラグビー専用競技場として1929年に開業。3つのグラウンドを持ち、冬の全国高校大会の舞台になってきた。東大阪市は、昨年のワールドカップ(W杯)日本大会の試合会場に立候補するにあたり、2015年に土地と建物を近畿日本鉄道から取得。そしてW杯後のにぎわいの創出や年間約1億円の維持費の削減を目的に指定管理者を募った。

同市を本拠地とするFC大阪がラグビー場の運営に手を挙げた理由は分かりやすい。「ホームタウンの中に試合ができるグラウンドを確保しようと動いてきた」と岡崎将太ゼネラルマネジャー(GM)は話す。今季は第2グラウンドで試合を行う予定だ。

当面の目標であるJリーグ3部(J3)昇格には5000人収容のホームスタジアムが必要。クラブはスポンサーなどから寄付を募り、第2グラウンドに5000人分の客席を寄贈する予定だ。約2万7000人収容の第1グラウンドを確保できた意義も大きい。1万5000人収容のホームスタジアムというJ1昇格の条件をもクリアできるからだ。

指定管理者が決まり、東大阪市の財政負担は減る。またラグビーファンにも恩恵はある。「第2グラウンドに客席ができれば、高校ラグビーの観客にも喜んでもらえるのでは」と岡崎GMは話す。

「ラグビーの試合が開きにくくなる」

ただ、日本ラグビー協会には危機感もある。「中長期的にはラグビーの試合が開きにくくなる恐れがある」とある幹部はいう。Jリーグの日程と、年末年始に行われる全国高校ラグビーは重ならないが、トップリーグとはもろに重複する。かつての大家、近鉄のラグビー部は今も花園を本拠地として活用している。

「第1グラウンドで(FC大阪の)試合をしようという話はまだしていない」と岡崎GM。指定管理者の選定を担当した東大阪市国際観光室も「今後のラグビーの試合開催や近鉄の活動に影響は出ないだろう」と説明する。

しかし、FC大阪がJ3、J2と階段を上って観客数が伸びていけば、手元にある第1グラウンドが会場の候補となるのは自然な話。施設の収益性を高めるため、FC大阪以外のサッカーの試合を誘致することも合理的な経営判断といえる。今後、2つの競技の日程が重なった時、どちらが優先されるのか。

「ラグビーのまち」を掲げてきた東大阪市も、花園の多角的な活用を後押しする。これまでラグビー場を他競技で使う場合、利用料を2割上乗せしてきたが、この割増料金を今年10月に廃止し、他競技での利用料を引き下げることにした。

そもそも、ラグビー界が指定管理者に名乗りをあげたのも「数少ないラグビー専用スタジアムを守らなければという思いからだった」と日本協会幹部は話す。民間企業とともに練った東大阪市への提案には、カフェやスポーツクライミングの施設を設置するなどのアイデアが盛り込まれており、「内容は良かった」との評価は協会内にもあった。

しかし、結果は落選。東大阪市は「施設の現状や市の目指す方向性に合った候補が選ばれた。当落を分けた詳しい理由や各評価項目の点数は公表できない」(国際観光室)としている。

日本協会の「敗因」を過去数年の長期的な戦略に求める意見もある。東大阪市はW杯開催のため、花園の土地の購入や施設の改修などに数十億円を投じてきた。「それに比べ、協会の努力は足りなかったのではないか。日本代表の好ゲームをもっと花園に持っていくなどすべきだった」とある協会関係者は指摘する。

ラグビー協会などの事業連合は指定管理者に「ワンチーム花園」の名で応募していたが、市と協会がどれだけワンチームになれていたかは難しいところ。

サッカーとの連携を深める契機に

長年のラグビー界の課題がさらにあらわになる可能性もある。国内で1万人以上の座席があるラグビー専用スタジアムは、他に秩父宮ラグビー場(東京)と熊谷ラグビー場(埼玉)だけ。他競技との共用スタジアムでのラグビー開催には制約があるのが現状だ。「Jリーグクラブの本拠地になっている競技場では、芝生が傷むなどの理由で年に1度ほどしかラグビーの試合をやらせてもらえない」と協会幹部はいう。

協会が2021年秋に創設するトップリーグに代わる新リーグでは1部リーグ参入に本拠地の確保を求める方向だが、その対応に悩むチームは多い。多くの人にメリットがありそうな今回の花園の"共用化"も、ラグビー界には必ずしもプラスに働かないのかもしれない。

別の見方もある。「新型コロナウイルスでどのスポーツも傷を負っている。これからは複数の競技で競技場を活用していく時代ではないか」と協会幹部は話す。感染症への恐怖が高まったことでスポーツ興行は今後数年間にわたって打撃を受ける可能性がある。スタジアムを保有、運営するスポーツ団体やクラブには逆風。多くの競技やエンターテインメントも交えてスタジアムを活用することがより求められるだろう。

昨年のラグビーW杯は、Jリーグの協力を得て多くのスタジアムを活用したことで成功につながった。代わりに、秩父宮で初のJリーグの試合も行われた。「ラグビーの聖地」をサッカークラブが運営するこの取り組みは、2つのフットボールが連携を深めていく契機になるかもしれない。

(谷口誠)

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