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アリババ経済圏、異形の膨張続く 6億人の情報収集

日米しのぐスマホ社会、国家の影色濃く

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中国のアリババ集団が築くスマートフォン(スマホ)経済圏が異形の膨張を遂げている。スマホ決済を軸に、通販や生鮮スーパー、金融、医療など、生活すべてをカバーするサービスを提供する。利便性の代償は個人情報だ。購買履歴や関心、生体認証など、膨大なデータの一部は当局にも流れる。データをかき集め米IT(情報技術)巨大企業を超える速度で成長するアリババだが、その繁栄は共産党一党支配と密接に絡み合う。

杭州市のケンタッキー・フライド・チキンの店舗。注文した女子学生がレジの端末をのぞきこむと、画面に「支払い完了」と表示された。顔認証で払える無人レジだ。

レジを開発したアリババは、顔などの生体データを抱える。それだけではない。購買履歴、学歴や資産、通院や投薬歴など、6億人の顧客情報を抱え込むことで、人工知能(AI)などの技術で世界の最先端を走る。

顧客も格付けする。評価システム「芝麻(ゴマ)信用」のスコアは、車の保有やカード支払い状況が良いと上がり、優遇が増える。就職やお見合いでも「スコアを参考にする」との声が出る。

まるで管理社会のようでも「アリババなしでは暮らせない」という人は増える一方だ。生鮮スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」はスマホで注文した魚介や果物が3キロメートル圏内なら30分以内に届く。「3キロ圏のマンション販売価格は近隣より1割高い」(四川省の不動産業者)

中国のスマホ社会はいまや世界最大だ。日本は規制やしがらみが多くスマホ決済がようやく離陸したばかりだが、中国の18年のスマホ決済額は前年比1.5倍の160兆元(2600兆円)に膨らんだもようだ。

中国では支払いをスマホ決済に限る店舗も出た。当局はフーマーを含む600超の例で現金を拒まないよう指導した。ただ国連の関係機関は、中国の現金決済比率が10年の61%から20年に30%と半減すると予測する。

アリババの成長速度は米IT大手も上回る。アリババの時価総額は直近の株安でピークから3割下がったが、初めて5千億ドルを突破したのは上場から3年半後。米アマゾン・ドット・コムは上場20年たってからだった。18年11月の「独身の日」セールでアリババの取扱高は約3兆5千億円。アマゾンは同7月のセールで4500億円(米調査会社推計)だった。

欧米ではアマゾンが既存業界を駆逐する「アマゾン・エフェクト」に批判が高まり、当局はデータ不正利用などの監視を強める。中国でも百貨店閉鎖など「アリババ・エフェクト」は甚大だが、政府との距離は正反対だ。

18年12月の共産党の改革開放40年式典で、アリババの馬雲(ジャック・マー)会長は「デジタル経済の創始者」と評され、党幹部からメダルを受け取った。グーグルなど世界のIT巨人が中国事業を制約されるなか、彼らと肩を並べようとしているアリババにも党や国家の影が色濃く迫っていることを印象づけた。

当局の関心はアリババが持つ個人情報だ。中国人民銀行(中央銀行)は18年6月、アリババや騰訊控股(テンセント)など全スマホ決済が経由するシステム「網聯」を稼働させた。「資金の流れのリアルタイムな監視に利する」(人民銀幹部)

アリババは公安当局と協力して街を監視する役割も担う。杭州市内4500台超のカメラ映像をAIで分析。火事や事件などを察知し、200人以上の警察官に指示を飛ばす。

海外から懸念されても中国企業が共産党を拒む選択肢はないだろう。中国は企業や個人が当局の情報収集に協力するよう義務付けた「国家情報法」を17年に定めた。世界貿易機関(WTO)は中国を念頭に、国家のデータ検閲禁止などの国際ルールをつくる方針だ。中国が囲い込むデータが増えれば、米国などの警戒を招きかねない。

(上海=張勇祥、松田直樹)

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