パリ協定、漂流を回避 問われる実効性 ガス削減の上積み必須
【カトウィツェ=竹内康雄】2020年以降の地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の実施指針が採択され、地球の気温上昇を産業革命から2度未満に抑える目標の漂流は回避された。ただ目標を実現できるかはルールの運用次第だ。温暖化対策の実効性を高めるには、温暖化ガスの排出が大きく増えている途上国を含め、ガス削減目標を一段と上積みすることが欠かせない。
「合意できなければトランプ米大統領の思うつぼだ」。第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)の開幕以降、各国の交渉官は口々にそう言い合った。パリ協定は当時のオバマ米政権と中国の習近平(シー・ジンピン)政権という2大排出国が採択から1年足らずでスピード発効に導いた。各国の温暖化対策への熱意が高まっていたところにトランプ氏が17年6月、協定からの離脱を表明した。
COP24はその熱意を持続できるかどうかの試金石だった。合意にこぎ着けられなければ、準備期間などを考えると協定が始まる20年に間に合わない。「トランプ氏にパリ協定を壊されたとみられる」(国際機関の担当者)との危機感は高く、米国の存在が合意を後押しした格好だ。
実施指針がまとまったことで、パリ協定が漂流する危機は回避された。だが協定が掲げる地球温暖化の防止を実現できるかは、各国の今後の取り組みにかかっている。パリ協定は各国が自主的に温暖化ガスの排出削減目標をつくる。新興国を含むすべての国を参加させるための知恵だったが、目標は甘くなりがちだ。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は10月、パリ協定の「2度目標」に対し、現状では3度に達すると警告した。3度上昇すれば自然災害の頻発など生活に大きな影響が出るため、各国の排出削減目標の上積みは不可欠だ。
パリ協定では5年ごとに削減目標を提出するようすべての国に義務付けている。20年はその最初の年で各国は国連に提出している排出削減目標を更新する。先進国より途上国の排出が多くなった今、温暖化防止の実効性を高めるには途上国の排出削減は避けられない。
だが今回の交渉で大きな焦点になったのは、先進国と途上国という「二分論」だった。中国を含む途上国は、先進国により大きな負担を求める京都議定書の流れを、できるだけパリ協定にも持ち込みたいと考えた。
米国などが「公平性を重視する」(ガーバー国務次官補代行)との主張を強硬に繰り返し、原則として先進国と途上国も共通のルールで削減を進めることになった。だが途上国には一定の柔軟性を認めるなど、先進国と途上国の区分が完全になくなったわけではない。
こうした構図を抱えながら温暖化対策の実効性を高めるには、先進国が率先して目標を上積みするのに加え、途上国が前向きになるような資金・技術支援がカギとなる。
「来年の20カ国・地域(G20)議長国として『環境と成長の好循環』を実現する世界のモデルとなるべく取り組みを進める」。原田義昭環境相は演説で力を込めた。COP24で日本の存在感は薄かったが、19年に世界を主導できる機会がある。