津波で全壊のカフェ再開 7年7カ月ぶりに笑い声 福島・いわき
東日本大震災の津波で壊滅的な被害に遭った福島県いわき市平薄磯地区で11日、地元に愛されたカフェ「サーフィン」が7年7カ月ぶりに営業を再開した。防災緑地の内側に建てた新しい店からは、かつてのように太平洋を望むことはできないが、店主の鈴木富子さん(65)はなじみ客らの笑い声に「やっと帰ってきたような気がする」と目を細めた。
1981年に開店したカフェは、県内有数の薄磯海水浴場が目の前にあった。夏は海の家からあふれた水着姿の若者や、近くの民宿の客らで一日中、大にぎわい。鈴木さんは「毎日、砂まみれの床を掃除すんのが大変だった」と懐かしむ。
「津波来っから逃げろ」。突然の大きな揺れに襲われたあの日、店の外から避難を促す声が響いた。車を走らせると、防潮堤の上に海を眺める常連だった男性らの姿が。「津波が来んだって」と呼び掛けたが「ママは何、慌ててんだ」と笑顔のまま。鈴木さんは避難所へ向かい、10日ほど後、男性が津波の犠牲になったことを知った。
地区には344戸に787人が暮らしていたが、地震と津波で約9割の家屋が全半壊し、100人以上が犠牲になった。「全員が身内みたいなもんだった。あんとき無理にでも車に乗せていれば」と自分を責め、1人になると涙がこぼれた。
震災の翌年、いわき市内の別の地区でカフェを再開するも、入居した建物の取り壊しのため昨夏に閉店。「このまま終わったんでは納得できね。もう一回、薄磯でやってみっか」。新しい店の外観はかつてと同じように黒でまとめた。住宅再建が始まったばかりの町では、遠くからでもよく目立つ。
「雰囲気が懐かしい」。津波で自宅が全壊し、近くの市営住宅に移住した八幡誘子さん(67)はオープンとともに来店。「真っ暗だった町にとって希望の明かり」と喜んだ。
昼時にはほぼ満席になり、鈴木さんは会話を楽しみつつも、忙しそうにキッチンとテーブルを行き来する。「津波で亡くなったみんなも、よく頑張ったなって言ってくれているような気がすんだ」。思い出が詰まったこの地で、町の再生を見守っていく。〔共同〕