子育てはお金がかかるけど… これだけある公的支援
公的支援をマネーハック(1)
今月のマネーハックのテーマは「公的支援」です。私たちが人生を歩んでいく上で何か経済的な困難に直面したとき、国や自治体からもらえるお金は意外とたくさんある、という話をしたいと思います。少し固い内容もあるかもしれませんが、夏休みの自由研究の気分で聞いていただき、これからの生活に役立ててみてください。今週は「子育て」を取り上げます。
多くの人は子育ては金がかかると感じる
子育てといえば、「お金がかかる」というイメージがあります。経済的理由から子づくりを回避する(あるいは2人目をつくらない)夫婦もいます。
政府の「結婚・出産等に関する意識調査」(まち・ひと・しごと創生本部「地域少子化対策検証プロジェクト」が2015年10月の会合で公表)によれば、理想的な子どもの数と、持つつもりの子どもの数を夫婦に聞くと「どちらも2人」が多数を占めるのですが、「理想より現実は1人少ない」と考える人もたくさんいます。
理想と現実が異なる理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が圧倒的で、誰もが「子育てはお金がかかり大変だ」と考えていることが分かります。これは多くの20~40歳代が感じていることではないでしょうか。
確かに子どもを育て上げるためには1人当たり2000万円かかるともいわれるほどたくさんのお金がかかります。子どもが好きだからといって3人、4人と簡単に産める時代ではないのかもしれません。
国は育児や教育支援に税金を投じている
しかしながら、少子化は国にとって大きな問題ですので、政府は育児支援や教育支援に税金を投じています。私たちはこうした支援策を通じて結構なお金をもらえるのです。
まず、国の制度である児童手当です。これは子どもが中学を卒業するまでもらえますが、標準世帯であれば3歳になるまで月1万5000円、3歳からは月1万円がもらえます(一定の所得以上の世帯は月5000円に減額)。これは総額で約200万円にもなる給付です。自治体によっては独自の助成制度を持っており、教育費の補助として活用できます。
また、自治体による医療費の助成制度もあります。中学3年生までの自治体が多いのですが、病気やけがの診療費で自己負担は原則発生しません(一部予防接種などで自己負担があるが、助成を受けられる接種は多い)。自治体によっては高校3年生までの助成制度もあります。
人生において医療費のほとんどが生じるのは未成年の時代と年金生活の時代なのですが、子育て世帯の医療費負担は少なく見積もっても100万円以上は軽減されていることになります。
また、未就学児の保育料が高いとはいえ、実際の保育費用はそれ以上かかっていますから、かなりの税金が投じられています。
学校教育も同様です。税の使い道について紹介する国税庁の学習コンテンツによれば、公立学校に通う生徒は小学校から高校まで12年、1人当たり合計1145万円の税が投入されているそうです。大学でも毎年90万~100万円くらいの税が教育に投入されているそうです。
子だくさんで家計が苦しい世帯についても一定の配慮があります。例えば、保育料が軽減されたり(2人目の負担は軽減、3人目以上の場合は無償など)、児童手当が手厚くなります。
これらを総合的に考慮すれば、実は子どもを育てるために社会が支援する費用というのは、相当の金額になっているのです。
支援の狙いは少子化対策だけでない
国の自治体の支援の狙いは少子化対策だけはありません。会社員が子育てと仕事を両立していくことは、トータルでは社会に有意義であるからこそ、支援を行っているのです。
社会の生産性向上とそれに伴う税収入増と、子育て支援とのバランスを考慮しつつ、対策は打たれています。子どもが知識水準の高い形で社会人になることは、国全体の労働生産性向上に直結します。
こういう話をすると、たぶん2つの感想を抱かれると思います。
まず、子どもを育て上げるために費やされる公的なお金の多さに意外感を覚えたのではないでしょうか。国の政策もばかにならないな、と思ったかもしません。
今でも相当ある支援策、今後の拡充に期待
一方で、いくら助成金をもらえたところで、やっぱり子育ては経済的に大変だ、という声も聞こえてきそうです。
もっともっと支援がなければ家計は苦しく、子どもをもう1人産もうと決断できないし、自分の老後の準備まで手が回らないと感じる人もいるでしょう。
未就学児の子育て支援と、高等教育の無償化など教育費用の負担軽減については今後も議論されていくでしょう。返済義務がない給付型奨学金の拡充により、大学進学のチャンスが増えることも期待されます。
課題はまだまだたくさんあるでしょう。しかし、「今でも、支援は相当ある」ということは知っておいていいのではないでしょうか。
フィナンシャル・ウィズダム代表。AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に「読んだら必ず『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」(日経BP)など。http://financialwisdom.jp
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