街づくりの核にスタジアム 米国は桁違いの規模
ロサンゼルス、28年五輪の会場に
スポーツ先進国である米国でスタジアムを中核にした街づくりが相次いでいる。なかでも注目されているのがロサンゼルスで進行している一大プロジェクトだ。2020年に新スタジアムが完成し、28年に開催されるロサンゼルス夏季五輪では開会式と閉会式が行われる。周辺地域の再開発も含めて、その規模は世界最大だ。
ロサンゼルス国際空港からおよそ6キロメートル。イングルウッドにある競馬場跡地に約300エーカー(約1.21平方キロメートル)に及ぶ建設現場が広がっている。この広大な土地を買収したのはサッカーのイングランド・プレミアリーグのアーセナル筆頭株主で、米プロフットボールNFLのラムズのオーナーでもあるスタン・クロエンケ氏。7万240人を収容する「ロサンゼルススタジアム・アット・ハリウッドパーク」を中心に、新たなエリアが2年後に誕生する。
スタジアム周辺には映画館や商業施設を併設するだけでなく、ホテルや企業も誘致。スポーツのみならずファッションやアート、音楽のトレンドを発信する拠点にしようという計画だ。敷地内には人々の憩いの場になる人工の湖ができ、2500戸の住宅も完成予定。五輪までに地下鉄が張り巡らされ、IT(情報技術)を活用した「スマートシティー」(環境配慮型都市)を目指している。
エリアを象徴するスタジアムは透明な屋根で覆われる全天候型で、外と内を隔てる壁がない。報道によると、建設費は40億ドル(約4500億円)ともいわれ、NFLのラムズとチャージャーズが本拠地にする。28年夏季五輪以外にも22年にNFLの王者を決めるスーパーボウル、23年にはアメフトの全米大学王者を決めるチャンピオンシップゲームと大型イベントの開催がすでに決まっているという。最大の特徴はグラウンドの頭上につり下げられるリング状の巨大なビジョン。構想では裏表両面に記録や他会場の試合中継を映し出すといい、コンコースなどにも青色発光ダイオード(LED)ディスプレーを配備。席から離れても人々が集って試合を楽しめるようにレストランやバーも充実させ、魅力的な空間を演出する。スイートルームも7種類、計260部屋を用意。完成前からすでに売り切れたものもあるという。
■民間資金だけで大型プロジェクト
これだけの大型プロジェクトで行政の財政支援を受けていないというのだから、日本ではなかなかまねできない。プロジェクトの販売を取り仕切るエージェント企業「レジェンズ」の担当者は「ここまで多角的な開発案件は全米でもない。立地に恵まれ、海外からの観光客が必ず訪れる名所になるはず。誰がいつ来ても楽しめるエンターテインメントの都になれる」と自信を持つ。
スタジアムのネーミングライツ(命名権)などを今後募っていくことになるが、街づくりから開発をともに行う事業パートナーも探していて、日本企業にも積極的な参画を呼びかけていく考えだ。「もはやスタジアムに看板を出すだけの時代ではない。いかにファンに共感されるサービスを提供できるか。企業にとって、街全体が自社の技術を来訪者にアピールするショーケースになるだろう。世界進出を考えている日本の企業にとって最高の舞台なので注目してほしい」
スタジアム建設を巡っては、それ単体ではなく、周辺開発も含めてエンターテインメントの「ハブ」になることが最近の傾向。「スポーツ観戦だけでなく映画、食事など全てで最初に選択される場所になることが大事」とレジェンズ社の担当者は語る。要はいかに様々な機能を複合させて収益力を高めていけるか。スポーツを媒介にして様々な人々を誘引し、消費が生まれれば、地域も持続的な発展を遂げられる。
日本ではプロ野球の日本ハムが北海道北広島市に新球場を約600億円で建設し、23年開業を目指してボールパーク構想を進める。日米で事情も規模も異なるが、街全体のブランド化にどう寄与して繁栄していくか。球団やクラブをはじめとする運営者側は忘れてはいけない視点だろう。
(渡辺岳史)