北朝鮮と悪い合意懸念 元米国務副長官 リチャード・アーミテージ氏
混迷・米外交を聞く
米外交が混迷の度を深めている。閣僚をはじめとした幹部の解任が相次ぎ、空席のままの要職も多い。トランプ大統領の予測不能な言動は世界を戸惑わせる。世界はどう見つめているのか。元外交官ら外交・安全保障政策のプロに話を聞く。
――トランプ大統領がティラーソン国務長官ら外交・安全保障政策を担う幹部を刷新しました。
「(現実主義的政策を志向する)マティス国防長官の困難が続くだろう。(ともに強硬派の)ポンペオ次期国務長官、ボルトン次期大統領補佐官(国家安全保障担当)がメンバーになり、マティス氏は独りぼっちだ。はっきりしたのはトランプ氏は自分が既に信じていることを周辺に言ってほしい人間であることだ」
――米外交はさらに強硬路線に傾くのでは。
「ボルトン氏は意見が同じなら心強い擁護者になってくれる。しかし、そうでなければ用心するがいい。彼は議論に勝つためなら何でもやる。すぐにカッとなる性格で、部下にとても厳しい。国家安全保障会議(NSC)チームには不幸なことになるだろう」
――トランプ氏は電撃的に米朝首脳会談に同意しました。
「会談するのはいいことだが、それはトランプ氏が全てのことを理解してからだ。彼はまだ北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と取引する準備ができていない。一方、韓国の特使によると、金委員長はトランプ氏のことをよく学んでおり、南北関係や世界、地域情勢に詳しい」
「アジア的な思考をすると、家に招待されるのはとても光栄なことだ。金委員長はワシントンに招待されたら、訪米を考えると私は思う。北朝鮮の人民にしてみれば、米大統領と北朝鮮のトップが対等な立場にいるとみえる。私なら金委員長を米国に招待したくない。そもそも会談が開かれるか確信がないが」
――トランプ氏は「最高の取引ができる」と豪語しています。
「トランプ氏は女性問題やロシア疑惑など困った問題が浮上すると、そこから目をそらさせようとする。(首脳会談が予定される)5月の時点でそうしたプレッシャーがかかると、自分にとって都合の悪いニュースを脇に追いやろうと(して悪い合意を)するかもしれない。米国が北朝鮮に経済支援する可能性もあり、それを恐れている」
「トランプ氏は日本、韓国の視点も踏まえて米朝首脳会談に臨まなければいけない。日本の立場を考えず、米国の安全保障だけに資する取引に動けば恥ずべきことだ。同盟国を扱う正しいやり方ではない。米議会とも調整が欠かせない。トランプ氏が過ちをおかしても議会がそれをただせる」
――安倍晋三首相が近く訪米します。
「トランプ氏に良い助言をできると確信する。『大統領、日米は長らく多くの支援を北朝鮮にしてきました。でも彼らは合意のたびにインチキをする。だからまた彼らにだまされないよう気をつけてください』と。日本を射程に入れる短距離弾道ミサイルや拉致問題も(米朝会談で)必ず提起するようトランプ氏に働きかける必要がある」
――中国に臨む姿勢をどう見ますか。
「トランプ政権には現在、対中政策なるものはない。通商政策があるだけだ。(中国が軍事拠点化を進める)南シナ海問題では、米艦船を派遣する『航行の自由』作戦を実施するだけでなく、日本やオーストラリア、東南アジア諸国と連携して対処することが必要だ」
(聞き手はワシントン=永沢毅)
=随時掲載
ドナルド・トランプ次期アメリカ大統領に関する最新ニュースを紹介します。11月の米大統領選挙でハリス副大統領と対決し、勝利しました。次期政権の行方などを解説します。