働き方法案に火種 首相、裁量労働制の答弁撤回
安倍晋三首相は14日の衆院予算委員会で、裁量労働制に関する自身の発言を撤回し、謝罪した。首相は1月29日の衆院予算委で厚生労働省の調査を取り上げ、裁量労働制で働く人の方が一般労働者より労働時間が短くなることがあると説明していた。野党は調査の不備を指摘し、法案の撤回を要求。「働き方改革関連法案」の成立に向けて大きな火種になってきた。
政府は働き方改革法案を今国会の最重要法案に位置付け、働く時間や場所を自由に選べる「裁量労働制」の対象拡大を盛り込む方針だ。2月下旬までに国会に法案を提出し、審議に入ることを想定。今国会での成立を目指している。
首相が1月29日の答弁に使った調査は、厚労省の「2013年度労働時間等総合実態調査」。全国の1万1575事業所が対象で、裁量労働制で働く人の労働時間は1日平均9時間16分、一般労働者の平均は9時間37分という結果だった。
首相はこの調査を用いて「裁量労働制で働く人の労働時間の長さは、平均的な人で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と説明した。だが、首相が「平均的な人」と説明した労働時間は調査対象の事業所で働く全員の労働時間から算出した「平均値」ではないとして、野党が反発。さらに、一般の労働者より労働時間が長いとする独立行政法人の調査結果もあると指摘し、発言の撤回を求めていた。
首相は14日の衆院予算委で「精査が必要なデータをもとにした答弁は撤回し、おわびする」と述べた。早期に発言を撤回した背景には自身が最重要法案と位置付ける働き方改革法案を今国会で成立させたいとの強い思いがある。裁量労働制の拡大は経済界からの要望が強く、首相も「生産性の向上につながる」として導入に意欲を示す。
野党は厚労省の調査をもとに働き方改革法案を作成しているとして撤回を求めた。立憲民主党の枝野幸男代表は14日、記者団に「政府は法案の提出方針を撤回すべきだ」と批判。同党の長妻昭代表代行は働き方改革法案から「裁量労働制の拡大を削除することが必要ではないか」と主張した。首相は予算委で、厚労省の調査のみを使って法案を作成したわけではないと反論した。
政府は現時点で法案の修正に応じる考えはないとする。野党が審議入りに応じなければ法案成立の時期がずれ込む可能性がある。