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「働きやすい電通」へ正念場、国内事業の収益厳しく

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電通は13日、2017年12月期決算(国際会計基準)を発表した。売上総利益に近い収益は9288億円と前の期比10.8%伸びたが、収益性の目安とする調整後営業利益は1639億円と1.6%減った。山本敏博社長が進める働き方改革関連の費用がかさみ国内事業の収益が悪化したことが響いた。ただ、18年12月期も労働環境改善に130億円を投じる計画だ。社会的な信頼回復に向けて山本体制は正念場を迎える。

「今までと同じようにトップライン(売り上げ)を追いかけるのは難しい状況だ」――。電通の曽我有信取締役は13日、都内で開いた決算会見で厳しい表情を浮かべてこう語った。

電通は15年に新入社員だった高橋まつりさん(当時24歳)が自殺し16年に労災と認定されたことにより社会的な批判を浴びた。これを受けて現在の山本社長が抜本的な働き方改革に着手、かつてのような「モーレツ主義」で国内営業を展開するようなことが難しくなっている。それは17年12月期の決算でもはっきりと見てとれる。

収益源である国内事業の調整後営業利益は17年12月期が888億円で、前年同期から一挙に8.8%減少した。働き方改革関連費用の増加が大きな要因となっている。具体的には17年は300人規模を増員するとともに、定型作業を自動化するソフト「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の導入など業務効率化も進めた。かかった費用は70億円だった。

海外事業は積極的なM&Aが奏功し、調整後営業利益は17年12月期が8.8%増の751億円だった。ただ、国内事業と比べて利益率が低いことから補えなかった。買収関連の評価益などで当期利益は26.3%増の1054億円となった。

国内の利益率の低下は労災問題を受け、やむを得ない面もある。深刻なのは事業の成長戦略において海外でのM&A頼みの構図が一段と強まっていることだ。

電通は13年に欧州の広告大手である英イージスグループ(現電通イージスネットワーク)を買収した。これを契機に海外M&Aを積極的に進めている。電通イージスによるM&Aは15年が36件、16年が45件、17年が31件と高い水準が続いており、これが収益の大幅な拡大につながってきた。

見逃せないのはM&Aの影響を除いた成長率が低下していることだ。15年が7%、16年が5.1%だったが、17年は0.1%にとどまった。国内(0.3%減)だけでなく、海外も0.4%と苦戦している。世界の広告市場の成長率(3.1%)を大きく下回った。電通にとって買収成果が予想ほど出ていないことを示しているともいえる。

 18年12月期見通しは17年12月期と比べても国内事業の苦戦ぶりが目立つことになりそうだ。収益が1兆69億円と前期比8.4%増に対して、調整後営業利益は1500億円と8.5%減少すると見込んでいる。海外事業は調整後営業利益が3.1%増の775億円となる見通しだ。

一方、国内事業の調整後営業利益は18.4%減の725億円となる見通しだ。働き方改革の関連費用として130億円を織り込んだことが影響した。人員は17年に300人弱増やしたが、今期も200人程度増員するとみられる。午後10時の退社を義務付けるなど働き方改革を一段と進める。

電通では山本社長が17年7月に記者会見し、労働環境を改善する基本計画を発表した。17年には管理職を含めた社員の総労働時間を2100時間以下にすることを掲げた。実際には2031時間になった。16年には2166時間だっただけに大幅な削減だ。有給休暇の取得率も56%から64%にまで上がった。

国内事業の収益は悪化しているが、働き方改革の成果は出始めていることは確かだ。山本社長が公約として掲げるのは社員一人当たりの総労働時間を19年に年1800時間にすることだ。これを達成するには残業をゼロに近いぐらいまで減らす必要がある。ハードルは高いが、曽我取締役は「18年内に施策はやりきる」と強調した。

17年に課題として浮上したM&Aの影響を除いた成長率については「18年は1桁前半、3~5%を想定している」(曽我取締役)。17年に獲得した新規案件が18年に貢献するとみる。

電通の収益環境には追い風も吹いている。今年は平昌五輪、サッカーワールドカップ、米中間選挙とビッグイベントが多いからだ。ただ、17年前半にはアクティビスト(もの言う株主)の要求の影響で、世界市場において有力クライアントである大企業が広告費を削減する動きも出たという。

最近では世界最大級の広告主の1社である英蘭ユニリーバがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)向けの広告の中止を検討していることが報じられるなど、広告市場の伸びをけん引してきたデジタル広告に不透明感も出ている。

18年は国内で働き方改革を進めるとともに、広告主のデジタル広告に対する疑念を払拭し、信頼性を高める取り組みも求められる。山本社長にとっては難しいかじ取りが求められそうだ。

(企業報道部 篤田聡志)

[2018年2月14日付 日経産業新聞]

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