出国税構想、見切り発車 受益・負担に見えづらさ
出張や海外旅行者全員から1人1000円を徴収する出国税構想は、政府内などで制度の是非を巡る十分な議論も経ないまま唐突に浮上した。観光目的と言いながら日本人も対象とするなど受益と負担の関係が見えづらいところもあり、観光財源として適切かどうか時間をかけた精査が必要だ。
豪 州 | 韓 国 | 英 国 | 米 国 | |
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名 称 | 出 国 旅客税 | 出 国 納付金 | 航 空 旅客税 | 電子渡航認証 システム申請料 |
対 象 | 出国旅客 | 出国旅客 | 空港出発 旅 客 | ビザ免除国から の訪米外国人 |
徴収額 (概算) | 5200円 | 1000円 (航空) | 1900円~ 6万5000円 | 1600円 |
主 な 使い道 | 出入国管理 や観光振興 | 観光振興 | 一般財源 | 観 光 プロモーション |
今夏までは財務省内でも「新税創設は簡単ではない」との見方があったが、訪日客数の引き上げにまい進する官邸の意向が強く反映され一気に構想が現実味を帯びたとされる。政府や与党の税制調査会といった通常の検討プロセスを踏まずに制度設計が急速に進む。
使い道を限定する特定財源にすると無駄遣いの懸念が高まる。毎年一定の収入が見込めるため、予算の必要性を巡る見極めが甘くなるためだ。揮発油税など道路特定財源は2008年に一般財源化した。
日本人が国内を出国するたびに1000円を払う見返りが十分にあるかも疑問が多い。観光庁は日本人にとっても「出入国管理や地方の空港利用の利便性が高まる」(幹部)というが、出国税の有識者検討会では「日本の空港は既にストレスなく出国できる仕組みが整っている」との声もあった。日本人を対象に含めることはなお異論が残る。米国は1人あたり14ドルを手数料方式で事前に徴収するが、対象は外国人に限っている。
観光庁を所管する国土交通省は、18年度の公共事業の関連予算で前年度比16%増の6兆円強を要求。北海道局だけでも空港予算は160億円に上り、訪日客の受け入れ整備に使う。観光目的とあらば仏像修繕から国立公園の整備、税関強化などあらゆる分野に適用が可能で水ぶくれの恐れが高い。縦割り組織特有の重複する予算やムダな道路や港湾の見直しが先決であって、新税に国民の理解を得るのはそれからだ。(馬場燃)