テロ再発、揺れるトルコ 「イスラム国」掃討に陰
【イスタンブール=佐野彰洋】トルコの首都アンカラを17日に襲った爆弾テロが、隣国シリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)掃討やシリア難民への対応で鍵を握るトルコを大きく揺さぶっている。トルコ政府は敵対するクルド人勢力の犯行と断定、報復姿勢を鮮明にした。対シリア政策で欧米など関係国の思惑がすれ違うなか、トルコがテロ報復に傾斜すれば国際的なIS包囲網構築や難民問題への対応が後手に回り、中東情勢の混乱が一段と泥沼化する恐れがある。
テロは17日夕にアンカラ中心部の官庁街で発生した。軍関係者を乗せたバスの車列を狙った自動車爆弾により少なくとも28人が死亡、61人が負傷した。18日時点で犯行声明は出ていない。
トルコのダウトオール首相は18日、シリアのクルド人勢力、民主連合党(PYD)構成員で同国籍のサリヒ・ネジャル容疑者を自爆テロの実行犯だと発表した。トルコのクルド人の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)も犯行を支援したと指摘した。
トルコ政府はテロへの報復姿勢を打ち出し、事件に関連して14人の身柄を拘束した。17日夜には軍が北イラクのPKK拠点を直ちに空爆し、幹部を含む60~70人を殺害したと明らかにした。

一方、PYD指導者は18日、AFP通信に対し「攻撃へのいかなる関与も否定する」と述べた。
暴力の応酬がやむ気配はない。18日には南東部ディヤルバクル県で道路に仕掛けられた爆弾が爆発。走行中の軍車両が吹き飛ばされ、兵士6人が死亡し1人が重傷を負った。軍はPKKの犯行と指摘している。
トルコでは2015年夏以降、テロが頻発している。アンカラの昨年10月の自爆テロでは100人以上が犠牲になった。
トルコは昨年7月、米国主導の対IS有志連合に本格的に参画した。その際、停戦状態にあったPKK掃討も同時に再開し、国内外の敵対勢力を同時にたたく「二正面作戦」を始めた。今月13日からはシリア北部で、支配地域拡大に動いたPYDに対する砲撃も実施するなど、クルド人勢力との戦いを拡大している。
トルコとクルド人勢力との対立激化は国際的な対IS包囲網の構築に影を落とす。トルコは南部のインジルリク空軍基地をIS空爆の拠点として米軍などに提供している。またこれまでに250万人以上のシリア難民を受け入れるなど、重要な役割を果たしてきた。
ただ米欧との協調は同床異夢の側面が隠せない。対ISの貴重な地上戦力として機能するPYDの扱いを巡って、支援する米国と砲撃に乗り出したトルコとの溝は広がるばかり。砲撃中止を求める米国に対し、エルドアン大統領は17日の演説で「どちらをとるか決めるべきだ」と迫っていた。
難民流入に苦しむ欧州連合(EU)は資金支援や加盟交渉の促進と引き換えにトルコに流入抑制の協力を迫るが、トルコにとってクルド人勢力掃討やテロ警備の方が優先順位が高いのが実情だ。
シリアのアサド政権の打倒を優先するトルコやサウジアラビア、延命を模索するロシア、IS駆逐を最重要視する米国、難民流入を抑制したい欧州――。シリア内戦を巡る各国の思惑はバラバラで、終結に向けた糸口をつかめないでいる。トルコを襲った新たなテロは各国の足並みの乱れをさらに助長しかねない。