実体経済に緩和届くか 波及ルートは3つ
「現時点で必要な措置はすべて講じた」。黒田東彦日銀総裁は決定会合後の記者会見でこう力を込めた。従来の日銀の緩和策を「戦力の逐次投入だ」と厳しく批判し、変身ぶりを強調した。黒田日銀は金融政策の歴史を変えるようなレジームチェンジ(体制転換)で、今度こそ緩和効果を実体経済に波及させられるのか。
日銀が2001年から06年にかけて実施した「量的緩和」では、金融機関が預金の支払いに備えて日銀に預ける「当座預金」を緩和の指標に定めて、市場に出回るお金を増やそうとした。
さらに白川方明前総裁は10年秋に「包括緩和」と呼ぶ緩和策を導入。資産買い入れ基金を設けて国債などを大量購入し、長期金利を押し下げることで民間企業の活動を後押しする効果を狙った。
しかしそれでもデフレ脱却にはたどり着かなかった。人口減少などを背景に民間の資金需要が低迷するなか、金融緩和だけを拡大しても、デフレ脱却は厳しいというのが白川日銀の立場だった。
そこで黒田総裁は会見でボードを指しながら、短期金利が0%まで低下したことで限界に達した従来の金融政策以外にも効果が波及するルートは3つあると強調した。
1つ目は、日銀が国債や上場投資信託(ETF)を買った代金として、債券市場や株式市場に大量のマネーが流れ出すルートだ。10年物や20年物などより期間の長い債券の利回りが低下し、株価のような資産価格が上昇する効果が期待される。
2つ目は、潤沢な資金を元手に金融機関が外債や株式など、よりリスクの高い資産への投資や、企業への貸し出しを増やすという効果だ。
3つ目が、日銀がデフレ脱却に向けて強力な金融緩和を進めると強調することで、企業や個人の物価上昇期待をくすぐり、投資や消費を引き出すというルートだ。「我々も成長に向けた投資をしていきたい」(田中稔一・三井化学社長)といった経営者心理の変化を呼び覚まそうとしている。
日銀は14年末までに資金供給量を約132兆円増やし、3つのルートで景気底上げを狙う。だが日銀の見通しでは実際に経済活動に使われる銀行券は3兆円増えるだけ。残りの128兆円は金融機関が預金の支払いに備えて日銀に預けている当座預金が増えるだけで、本当に世の中のお金が回りだすとは限らない。
黒田緩和は3つのルートでどこまで効果を上げられるのか。世界の金融界から注目を集める大実験といえる。