大晦日の「年越の祓」と「除夜の鐘」
大晦日の夜にはお寺で「除夜の鐘」が撞かれる。また年が明けると、多くの日本人が神社に初詣をする。
千年以上続いている日本の伝統なのだが、いつ頃からこのように年末年始を過ごすようになったのか興味を覚えたので調べてみた。
私にとって神社は年が明けてから初詣に行くところと思っていたのだが、大晦日の日に多くの神社で「年越の祓(としこしのはらえ)」という重要な神事が執り行われていることを最近になって知った。
明治時代になって太陽暦が採用されるまでは、我が国は太陰暦を用いていたのだが、太陰暦は月の満ち欠けの周期を1ヶ月とする暦法なので、満月の日は必ず毎月の15日(十五夜)となり月末には月が目に見えない状態となる。
月末のことを「晦日(みそか)」とも言うがこの言葉の由来を簡単に述べると、「月が隠れる日」を意味する「月隠(つきごもり)」が訛って「晦(つごもり)」となり、毎月末を「晦日(みそか)」と呼ぶようになったらしい。
「晦日」を「みそか」と読ませるのは、月の周期が約30日なので月末の日は「三十日(みそか)」だったからである。そして一年最後の「晦日」となる十二月の月末を「大晦日(おおみそか)」としたのだ。
もともと神道では、6月と12月の晦日には「大祓(おおはらえ)」と言って、神に祈って心の穢れを取り払う神事が宮中や各地の神社で執り行われ、6月の大祓は「夏越の祓(なごしのはらえ)」、12月の大祓は「年越の祓(としこしのはらえ)」と呼ばれている。
このような行事がいつから行われているかは定かではないが、大宝元年(701)の大宝律令によって正式な宮中の年中行事に定められているので、それよりもかなり古くから行われていることは間違いがない。「古事記」に、第14代仲哀天皇ご崩御の時に「大祓」を行ったという記述があるそうだが、仲哀天皇ご崩御というのは4世紀中頃の事である。
この「大祓」の儀式で読みあげられる言葉が、平安時代に完成した「延喜式」のなかに載せられている「大祓詞」で、我が国で最も古い祓詞と言われているそうだ。
原文と口語訳が次のURLで紹介されているが、解説にもあるように、個人を対象とした祓ということではなく、天下万民、社会全体の罪穢れ、災厄を取り除くための天皇の祈りの言葉である。
http://www.nippon-bunmei.jp/ooharai2.htm
このように「大祓」は長い伝統のあるものだが、応仁の乱のころから宮中では行われなくなり、江戸時代の元禄4年(1691)に再開されたが、宮中や一部の神社で神事として形式的に伝えられたにすぎなかったそうだ。
この儀式が全国的に広まるのは明治時代で、明治5年(1872)の教部省通達で
「毎年官社以下すべての神社の社頭に祓いの座を設け、府県官員はもちろん、一般国民もまた社参して大祓せよ」との発令により、国民行事として広まったようである。
ところで、よく年末の挨拶で「よいお年をお迎えください」と言うのだが、この言葉の意味は昔から「来年が良い年になりますように」という意味だとばかり思ってきたが、昔は違ったようなのだ。
かつては「お正月さん」あるいは「歳徳神(としとくじん)」という神様が初日の出とともに現れ、一年の幸せをもたらすために降臨すると信じられていて、それぞれの家庭で大掃除をしたりお餅を搗いたりするのは、この神様をお迎えするための準備をするということなのだそうだ。
年末のあいさつで「よいお年をお迎えください」とよく使うのだが、この「お年を」とはこの神様のことを指して、「(良い準備をして)歳徳神をお迎えください」という意味になるのだそうだ。
http://blog.goo.ne.jp/kyo-otoko/e/690c671c483cfd8ad884f42dabd2dbf6
ネットで調べると、邪気を払うために大晦日に、節分の様に豆を撒く地方もあるようだ。旧暦の世界では節分と大晦日はかなり日が近く、年によっては節分の日が大晦日になることもある。(例えば2038年は旧暦の大晦日が節分と一致する。)
http://shima-tabi.seesaa.net/article/30595331.html
http://www.cs.r-ts.co.jp/rcc/breaktime/untiku/090127.html
豆まきは本来は大晦日の行事であったのが、旧暦では新年が春から始まるので、立春前日の節分の行事に変わっていったという説もあるが、地方によって大晦日に豆を撒く風習が残っていることは面白いことだ。
ここまで神社の事を中心に書いてきたが、お寺の事も書こう。お寺の行事はもちろん「除夜の鐘」だ。
ネットでいろいろ調べると、「除夜」とは「旧年を除く夜」という意味で大晦日の夜を指し、大晦日に除夜の鐘を撞くのは、中国の宋の時代から始まった仏教行事に由来しているのだそうだ。日本には鎌倉時代に伝来して、江戸時代以降各地で盛んになったようである。
「除夜の鐘」は深夜に108回撞かれる。
人には108の煩悩があると言われているが、何故108なのかは諸説があるが、次のURLの説明は煩悩の数の説明として説得力がある。
http://www.jodo.or.jp/knowledge/syogatu/index1.html
鐘を撞くことで、鐘の音を聞く全ての人々がこれらの煩悩を1つずつ取り除いて、清らかな心で正月を迎えようと言う考え方なのだが、なんと素晴しい行事ではないか。
歳徳神をお迎えするために日本中で大掃除をし、お寺も神社も力を合わせて、国民が清新な気持ちで新しい年が迎えることが出来るために祈る。こうすることで、みんなが気持よく正月を迎えることが出来るというものだ。
室町時代以降日本を訪れた外国人の多くが素晴らしいと日本を賞賛した記録を残しているのは、一年を通してこのような伝統行事が色々あって、人々に浸透していたことと無関係ではないだろう。
例えば
「…何しろこの国民は、その文化、作法と習俗の点で、言うも恥ずかしいほど、さまざまな事にかけてエスパニア人にまさっています。」(ルイス・フロイス[1532-1597]「日本史1キリシタン伝来の頃」)
「…人々はいずれも色白く、極めて礼儀正しい。一般庶民や労働者でもその社会では驚嘆すべき礼節をもって上品に育てられ、あたかも宮廷の使用人のように見受けられる。この点においては、東洋の他の諸民族のみならず、我らヨーロッパ人よりも優れている。」(アレッサンドロ・ヴァリニャーノ[1539-1606]「日本巡察記」)
いずれもフランシスコ・ザビエルの後で日本にキリスト教布教のために派遣されたイエズス会の宣教師だが、日本人とその文化を絶賛していることに注目したい。
若い世代が大学進学や就職してどんどん親元を離れていき、核家族化して古き良き伝統文化が失われつつある昨今であるが、日本人の正月を迎える風習や伝統文化などは、これからも次の世代に引き継がれていってほしいものだと思う。
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千年以上続いている日本の伝統なのだが、いつ頃からこのように年末年始を過ごすようになったのか興味を覚えたので調べてみた。
私にとって神社は年が明けてから初詣に行くところと思っていたのだが、大晦日の日に多くの神社で「年越の祓(としこしのはらえ)」という重要な神事が執り行われていることを最近になって知った。
明治時代になって太陽暦が採用されるまでは、我が国は太陰暦を用いていたのだが、太陰暦は月の満ち欠けの周期を1ヶ月とする暦法なので、満月の日は必ず毎月の15日(十五夜)となり月末には月が目に見えない状態となる。
月末のことを「晦日(みそか)」とも言うがこの言葉の由来を簡単に述べると、「月が隠れる日」を意味する「月隠(つきごもり)」が訛って「晦(つごもり)」となり、毎月末を「晦日(みそか)」と呼ぶようになったらしい。
「晦日」を「みそか」と読ませるのは、月の周期が約30日なので月末の日は「三十日(みそか)」だったからである。そして一年最後の「晦日」となる十二月の月末を「大晦日(おおみそか)」としたのだ。
もともと神道では、6月と12月の晦日には「大祓(おおはらえ)」と言って、神に祈って心の穢れを取り払う神事が宮中や各地の神社で執り行われ、6月の大祓は「夏越の祓(なごしのはらえ)」、12月の大祓は「年越の祓(としこしのはらえ)」と呼ばれている。
このような行事がいつから行われているかは定かではないが、大宝元年(701)の大宝律令によって正式な宮中の年中行事に定められているので、それよりもかなり古くから行われていることは間違いがない。「古事記」に、第14代仲哀天皇ご崩御の時に「大祓」を行ったという記述があるそうだが、仲哀天皇ご崩御というのは4世紀中頃の事である。
この「大祓」の儀式で読みあげられる言葉が、平安時代に完成した「延喜式」のなかに載せられている「大祓詞」で、我が国で最も古い祓詞と言われているそうだ。
原文と口語訳が次のURLで紹介されているが、解説にもあるように、個人を対象とした祓ということではなく、天下万民、社会全体の罪穢れ、災厄を取り除くための天皇の祈りの言葉である。
http://www.nippon-bunmei.jp/ooharai2.htm
このように「大祓」は長い伝統のあるものだが、応仁の乱のころから宮中では行われなくなり、江戸時代の元禄4年(1691)に再開されたが、宮中や一部の神社で神事として形式的に伝えられたにすぎなかったそうだ。
この儀式が全国的に広まるのは明治時代で、明治5年(1872)の教部省通達で
「毎年官社以下すべての神社の社頭に祓いの座を設け、府県官員はもちろん、一般国民もまた社参して大祓せよ」との発令により、国民行事として広まったようである。
ところで、よく年末の挨拶で「よいお年をお迎えください」と言うのだが、この言葉の意味は昔から「来年が良い年になりますように」という意味だとばかり思ってきたが、昔は違ったようなのだ。
かつては「お正月さん」あるいは「歳徳神(としとくじん)」という神様が初日の出とともに現れ、一年の幸せをもたらすために降臨すると信じられていて、それぞれの家庭で大掃除をしたりお餅を搗いたりするのは、この神様をお迎えするための準備をするということなのだそうだ。
年末のあいさつで「よいお年をお迎えください」とよく使うのだが、この「お年を」とはこの神様のことを指して、「(良い準備をして)歳徳神をお迎えください」という意味になるのだそうだ。
http://blog.goo.ne.jp/kyo-otoko/e/690c671c483cfd8ad884f42dabd2dbf6
ネットで調べると、邪気を払うために大晦日に、節分の様に豆を撒く地方もあるようだ。旧暦の世界では節分と大晦日はかなり日が近く、年によっては節分の日が大晦日になることもある。(例えば2038年は旧暦の大晦日が節分と一致する。)
http://shima-tabi.seesaa.net/article/30595331.html
http://www.cs.r-ts.co.jp/rcc/breaktime/untiku/090127.html
豆まきは本来は大晦日の行事であったのが、旧暦では新年が春から始まるので、立春前日の節分の行事に変わっていったという説もあるが、地方によって大晦日に豆を撒く風習が残っていることは面白いことだ。
ここまで神社の事を中心に書いてきたが、お寺の事も書こう。お寺の行事はもちろん「除夜の鐘」だ。
ネットでいろいろ調べると、「除夜」とは「旧年を除く夜」という意味で大晦日の夜を指し、大晦日に除夜の鐘を撞くのは、中国の宋の時代から始まった仏教行事に由来しているのだそうだ。日本には鎌倉時代に伝来して、江戸時代以降各地で盛んになったようである。
「除夜の鐘」は深夜に108回撞かれる。
人には108の煩悩があると言われているが、何故108なのかは諸説があるが、次のURLの説明は煩悩の数の説明として説得力がある。
http://www.jodo.or.jp/knowledge/syogatu/index1.html
鐘を撞くことで、鐘の音を聞く全ての人々がこれらの煩悩を1つずつ取り除いて、清らかな心で正月を迎えようと言う考え方なのだが、なんと素晴しい行事ではないか。
歳徳神をお迎えするために日本中で大掃除をし、お寺も神社も力を合わせて、国民が清新な気持ちで新しい年が迎えることが出来るために祈る。こうすることで、みんなが気持よく正月を迎えることが出来るというものだ。
室町時代以降日本を訪れた外国人の多くが素晴らしいと日本を賞賛した記録を残しているのは、一年を通してこのような伝統行事が色々あって、人々に浸透していたことと無関係ではないだろう。
例えば
「…何しろこの国民は、その文化、作法と習俗の点で、言うも恥ずかしいほど、さまざまな事にかけてエスパニア人にまさっています。」(ルイス・フロイス[1532-1597]「日本史1キリシタン伝来の頃」)
「…人々はいずれも色白く、極めて礼儀正しい。一般庶民や労働者でもその社会では驚嘆すべき礼節をもって上品に育てられ、あたかも宮廷の使用人のように見受けられる。この点においては、東洋の他の諸民族のみならず、我らヨーロッパ人よりも優れている。」(アレッサンドロ・ヴァリニャーノ[1539-1606]「日本巡察記」)
いずれもフランシスコ・ザビエルの後で日本にキリスト教布教のために派遣されたイエズス会の宣教師だが、日本人とその文化を絶賛していることに注目したい。
若い世代が大学進学や就職してどんどん親元を離れていき、核家族化して古き良き伝統文化が失われつつある昨今であるが、日本人の正月を迎える風習や伝統文化などは、これからも次の世代に引き継がれていってほしいものだと思う。
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