iPhone5sを分解してみた 部品実装、整然と美しく
日経エレクトロニクス調査
「一世代前の製品も部品が基板上に整然と並んでいるのに驚いたが、今回はそれ以上だ」――。米アップルの新型スマートフォン(スマホ)「iPhone(アイフォーン)5s」を分解したところ、主要な半導体や、コンデンサーやコイルといった受動部品がプリント回路基板上に整然と配置され、無駄なスペースを極力排除した高密度実装が施されていた。
スペース確保、電池容積増やす
日経BP社の「日経エレクトロニクス」編集部が、アップルが発売したiPhoneの新機種「5s」と「5c」、および一世代前の「5」を分解し、内部構成がどう変化したのかを分析した。
部品を美しく整然と並べたアップルの狙いは、隙間無く部品を配置することで、基板の実装面積を少しでも減らし、リチウムイオン電池の容積を大きくしようという設計思想とみられる。
「5s」と「5c」の基本的な部品配置は、前モデルの「5」とほぼ共通だった。部品の点数もほとんど差がない。それでも、メーン基板が本体内に占める面積を6~10%ほど削減できているのは、部品実装の洗練度が向上したことと、より高集積の電子部品を活用したためだ。無駄のない配置を心がけた結果、整然とした部品実装となっている。
ある電子部品メーカーの技術者は、基板の実装を見て「設計に労力をかけて、実装密度を最大限高めているところがアップルらしい」と評する。タッチパネル部と接続するコネクタの幅を1ミリメートル削るといった地道な努力を重ねながら、実装面積削減に取り組んだ様子が見て取れた。
オランダ社の汎用マイコン搭載
基板の小型化によって生まれた空間を、アップルはリチウムイオン電池の容積増加に生かしている。「5」では31.6ミリメートルだった電池の横幅が、「5s」では32.9ミリメートルになった。縦の長さと厚さは同じである。この横幅拡大によって、電池の電流容量を約8%増やしている。
「5s」には「5c」にない部品が3つある。64ビットのCPU(中央演算処理装置)「A7」、ホームボタンの場所に配置された指紋センサー、そしてアップルが「M7」と呼ぶ、本体の動きを検知する専門の処理装置「モーションコプロセッサー」だ。
なかでも注目を集めているのがM7だ。加速度センサーや角速度センサーのデータを活用して、ヘルスケアやフィットネスのアプリケーションに利用できる。
このコプロセッサーを使うことで「5s」は大電力を消費するCPUを使うことなく、保持している利用者が起きているのか寝ているのか、走っているのかなどを検知できるという。スマホのアプリを工夫すれば、自動車に乗っているかどうかも把握できる。
興味深いのは、64ビットの強力なCPUを搭載しながらも、あえて補助的に別のコプロセッサーとして搭載したことだ。分解してみたところ、今回分解した端末にはオランダのNXPセミコンダクターズ製の汎用マイコンが使われていた。
電子部品の技術者は「決して高価な部品ではない」と見る。あえて分離しているのは、電池での駆動時間を延ばしながら、iPhoneを日常的なセンサーとして活用してもらうためだろう。
CPU「A7」は動作時の消費電力が大きいため、駆動時間を延ばすためにはなるべく寝かせておきたい。センサーのデータを集めて利用者の状態を検知する処理はそれほど複雑ではないため消費電力が少ないマイコンに集約したとみられる。
新開発の64ビットCPU「A7」
ほとんどの部品が共通する「5s」と「5c」だが、電源管理ICや音声コーデックICは異なっている。違う理由は「5s」には新開発の64ビットCPU「A7」が、「5c」には「5」にも搭載された「A6」が使われているためだ。
このため、「5c」の電源管理ICには「5」と似た外観の部品が使われている。型番は異なるが、同等機能の品種とみられる。「5s」には「A7」に対応するとみられる新しい電源管理ICが搭載されている。この変更によりコイルやコンデンサーなど関連する部品の配置も変わった。
音声コーデックICは「5s」「5c」とも新しい型番の部品になった。「5c」では実装面積の削減、「5s」では高音質化または多機能化を図ったとみられる。「5」では8.5ミリメートル×6.5ミリメートルの部品だったが、「5c」搭載品は4.4ミリメートル角。「5s」には6.0ミリメートル角と一回り大きな音声コーデックICが搭載されている。
外観からは「5」と「5s」では大きな変更はないように見える。だが分解してみると、わずかなスペースを確保するために細心の注意と計算によって部品配置を考え、洗練された基板設計をしたアップルの苦心が見てとれる。
(竹居智久・根津禎=日経エレクトロニクス、蓬田宏樹)
[日経産業新聞2013年10月28日付]