ぐっすり眠るコツ、「長すぎる睡眠」は逆効果
眠りが浅いと、朝目覚めたときに休息感や充足感が得られない。原因は様々だが、大人の場合、一番多いのは寝すぎだという。
日本大学医学部付属板橋病院精神神経科の内山真教授は、「加齢とともに、ぐっすり眠れる時間は短くなる。若いころと同様に8時間以上も寝ていると、睡眠自体が浅くなり、熟睡感が得られない」と指摘する。
60代では6時間
高齢になるほど眠れる時間が減るのは、睡眠と関わりの深いホルモンの量が減るのが一因とされる。心身ともに健康な人の平均睡眠時間は、10代までが約8時間、成人になると7時間、60代では6時間になるという。「だんだん短くなるのが健康な証拠」と内山教授。もちろん、個人差はあるので今の自分に合った睡眠時間を確保することが重要だ。「翌日、睡眠不足で困らない程度が目安。毎日同じ睡眠時間でなくても、1週間くらいで帳尻を合わせればいい」(内山教授)
ストレスも睡眠の大敵だ。多くのストレスがかかると体を活動モードにする交感神経が緊張して、眠りが浅くなる。休息モードにして眠りに誘う副交感神経の働きを活発にするには、ぬるめの湯でゆったり入浴したり、アロマやマッサージなどでリラックスしたりするのがお勧めだ。
また、「8時間睡眠がベスト」などという"睡眠幻想"を捨てることも重要。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の栗山健一室長は、「睡眠への期待が大きいほど、熟睡できないことへの不安感が大きくなり、眠ること自体がストレスになってしまう。『寝なければ』ではなく、『眠くなったら寝よう』という程度の気持ちでいるほうが、結果的にはいい眠りが得られる」と話す。
内山教授も「体には睡眠や活動など生体リズムを調節する体内時計が備わっており、体温が高い時間帯にはなかなか眠れない。体のリズムを無視して眠る時間を決めるのではなく、眠くなったら床に就くのが基本」という。
女性の場合、月経周期も睡眠に影響する。黄体ホルモンの働きで体温が上がる高温期は、夜になっても体温が下がりにくく、眠りが浅くなりやすい。
そもそも眠りは体温との関係が密接だ。体温は活動する日中は高く、夜になると低くなる。この高低差が大きいほど眠りは深くなる。日中にできるだけ体を動かして体温をしっかり上げておくのも、うまく熟睡できるようになるコツだ。
毎日いい眠りを続けていくには、よく日光を浴びることも大事だ。「体内時計は24時間よりも長い周期なので、放っておくと遅寝遅起きにズレていく。これを24時間周期に強力にリセットしてくれるのが、朝の光」と栗山室長。朝起きたら、まずはカーテンを開けて光を浴びるようにしよう。内山教授によると「月経周期の高温期であっても、日中、積極的に日光を浴びると、夜間の体温が下がりやすくなる」そうだ。
うつ病に注意
眠れないとき、心の面で注意したいのが、うつ病だ。「うつ病の初期には、感情や意欲に関する訴えより、ぐっすり眠れない、熟睡感がないなどの訴えのほうが多い」と栗山室長。ちゃんと寝ているはずなのに疲れが取れない、食欲が出ない、気分が晴れない、仕事の効率が落ちたなどの症状がある場合は、うつかもしれない。無理をせず、専門家に相談しよう。
また、うつには季節性のものもある。冬になると朝起きるのがつらい、眠気が強い、無性に甘いものが食べたい、疲れやすいといった症状があるなら、「冬季うつ」の可能性がある。一番の原因は日が短くなること。春の訪れとともに次第に日が長くなっていくと、体調が少しずつ上向きになり、睡眠の質もよくなる。「外に出て積極的に日光に当たることが大切」と内山教授は助言する。
あまり心配ごとを抱え込まず、屋外に出て活発に体を動かす――。気持ちのいい眠りは、健康な日々の暮らしのなかにある。
体の異常が原因で熟睡感が得られないこともあるので注意が必要だ。
いびきがひどく、睡眠中に何度も呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群では、起床時に頭痛や疲労感も伴う。東京医科歯科大学歯学部付属病院快眠歯科の秀島雅之講師は「男性に多いが、女性も更年期以降に増えてくる」と指摘する。
鼻マスク(CPAP)で空気を気道に送り込む治療法が中心だが、軽症ならマウスピースも効果がある。「睡眠中に装着して下あごが少し前に出るようにすると、気道が広がって呼吸がしやすくなる」(秀島講師)
布団に入ると足がむずむずする「レストレスレッグス症候群」も睡眠を浅くする。鉄欠乏がその一因で、女性に多い傾向がある。「貯蔵鉄(フェリチン)が減っている場合は、鉄剤を服用することで症状が改善する」と内山教授。
足や手がぴくついて寝付けなくなるのは「周期性四肢運動障害」。寝る前にマッサージをしたり、カフェインやアルコールを控えたりすると症状緩和に役立つという。
(日経ヘルス編集部)
[日経プラスワン 2014年3月22日付記事を基に再構成]
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