進化版SNSで世界へ 風雲児たちが駆ける
躍進ネットベンチャー2012(1)
ツイッターにフェイスブック。米国のハイテク集積地、シリコンバレー発の交流サイト(SNS)は世界中の現代人に無くてはならないコミュニケーションツールとなりつつある。ヒトがヒトを呼ぶその伝播力は瞬く間にユーザーを囲い、街が形成され、おしゃべりが始まる。ただ、渋谷に飽きた若者たちが表参道の奥地に場所を移すように、SNSの世界でも「定住」が続く保証はない。
SNSではいくらでも複数のサービスに「住民登録」できる。あまりに街が肥大化した結果、同好の士による「リトルタウン」が勃興し、そこでのコミュニケーションの方が濃くなる可能性もある。実際に米国では、お気に入りの画像を収集・共有する「Pinterest(ピンタレスト)」など、明確な目的や機能に特化したSNSが注目されつつある。
先鋭化するSNS。この流れにいち早く気づいたベンチャーは、日本にも存在する。モノでつながる新手のSNS「Sumally(サマリー)」もその1つだ。
モノの百科事典「Sumally」、レディー・ガガも視野に
「シリコンバレーみたいな会社が東京でも作れるんだ、ということを証明したくてサマリーを始めました。僕がやりたいのは『ウォシュレット』的なこと。日本人の感覚や感性を生かした世界に通用するクオリティー、とでもいうんでしょうか」。一橋大学卒業後、電通、「VOGUE」や「GQ」擁する雑誌出版社のコンデナスト・パブリケーションズ・ジャパン(東京・渋谷)を経て、11年にサマリー(東京・渋谷)を起業した山本憲資(30)は、真剣な面持ちでそう語る。
おしゃれな家具からクルマ、雑貨、洋服……。サマリーの画面を埋め尽くすのは、とにかくモノ、モノ、モノ。11年9月に一部ユーザーから始まったサマリーのサイトには、すでに25万点以上のモノの画像が登録されている。「ネットにモノの情報はあふれているけれど、整理されていない。ちゃんとしたモノの百科事典を作りたい」。好きなモノに囲まれ、好きなモノを紹介する仕事をしていた山本は、そう考え、一念発起した。
ネット上には「Wikipedia」という百科事典がある。しかし、森羅万象あらゆる情報にモノも混ざり、それらは単一のフォーマットで整理されておらず、ビジュアルも不十分。そして、ソーシャルメディアとしての機能もない。一方、「ビジュアル系SNS」という意味では、急速にユーザー数を増やし、「次に来る」と言われている米国生まれのピンタレストと似ている。が、非なるものだ。
モノでも風景でも、興味のわくあらゆる画像を分類しながら収集していくピンタレストに対し、サマリーはモノの画像に特化。加えて、「have(持っている)」「want(欲しい)」という情報を必ず付加していくという点でオリジナリティーがある。「憧れのヒトや友達が本当に良いと思って買ったモノや、欲しいと思っているモノの方が、より心を動かす」。山本はそう言う。
ユーザー同士の交流はいたってシンプル。他人が「have」あるいは「want」としているモノで、自分も持っている、あるいは欲しいモノがあれば、いずれかのボタンを押す。言葉はいらない。波長が合うユーザーや友達がいればツイッターのようにフォローすることもできる。
一口にモノと言っても、携帯電話からコンビニで買ったビールまで、日常のありふれたモノが並んでいるわけではない。
iPhoneに外付けするいかつい望遠レンズ、ミラーボールのようなデコレーションが施された「Dior(ディオール)」のドレス……。ユーザーは皆、自分を表現するようなこだわりの1品を登録している。倣って登録していくと、ただモノの写真が並んだだけのリストが、自分自身を象徴するかのように思えてくる。他人も同様だ。
一流クリエイターがサイトを構築
「これは登録されていないだろう」と思えるようなマニアックな、でも自分だけが密かに愛着している1品を探してみると、出てくる。そのモノを持っているユーザーがほかに何を持っているのか、気にならないはずがない。フォローしながら「have」「want」をクリックするうちに、自分のリストは充実していく。目的のモノはインデックスや検索から探すことも可能。サマリーの中で見当たらなくても、その登録作業は直感的で簡潔だ。
「ブックマークレット」という機能を使い、ネット上の画像なら何でも簡単に登録できる。目当てのモノが表示された画面で、ブラウザーに仕込んだブックマークレットのボタンを押すと、そのページの画像の上に「have」「want」のアイコンが重なる。これをクリックすればよいだけだ。サイトの作りは始まって間もないサービスとは思えないほど、よくできている。
そのはず、サイト開発はウェブ業界で知らない者はいないといわれる著名なエンジニアでクリエイターの中村勇吾を筆頭に、ユニクロのキャンペーンサイト「UNIQLOOKS」を手がけたクリエイターなどが行っている。山本はサマリーを起業するにあたって、中村に「僕、日本発のザッカーバーグになりたいんですよ」と直談判。中村はその熱意にほだされたという。
まだ駆け出しのサービスで収益化はこれから。ビジネスモデルは周到に練っている。12年、山本は収益化を本格化させると話す。「モノを網羅し、そこにネット通販との接点を付ければ、購買活動における主導権が売り手から買い手に移るのではないかと考えています。買い手がwantをシェアすることで、今まで『買いに行く』ものだったのが『売りに来てもらえる』ものにシフトするのではと」
山本は12年夏ごろまでに、販売・購買の機能を実装すべく、中村らと開発を急ぐ。ビームス、仏コレットといったセレクトショップから、アダムエロペなどのファッションブランド、トーヨーキッチンなどのメーカーまで。すでにサマリーには60以上の企業ページが用意されており、ユーザーはここからお気に入りのモノを登録することができる。
今のところ企業ページの掲載は無料だが、販売機能が付加されれば、ここが収益源になる。さらに、グーグルやアマゾンで出てくる広告やリコメンドのように、有用な販売情報をそっと差し出すような機能も考えている。ユーザーが「want」しているモノに関し、最安値を提示した販売業者の情報のみが表示されれば、まさに買い手市場。可能性は広がる。
海外ユーザー比率は15%
サイト開設から5カ月足らず。モノの数は25万まで増えたが、ユーザー数はまだ数万人。ただ、山本が前職時代に培ったファッション業界や、中村のクリエイター業界の人脈を中心に、こだわりの強いユーザーが多い。中には、脳科学者の茂木健一郎やアーティストとして活躍するMEG、藤原ヒロシといった著名人の顔ぶれも。山本によると、この層はサービスをいち早く使い始める「アーリーアドプター」や「トレンドリーダー」といった層と重なり、あえての戦略だという。
「『モノで文脈を作る能力』というのは日本人、特に東京の人たちの圧倒的な能力だと僕は思っていて、その辺を歩いているギャルでも、1000円のTシャツ、500円のスカート、2000円の靴で何とか系ですというプレゼンテーションができる。日本人のセンスは絶対にグローバルで通用する言語だと思う。そのエネルギーを元気玉のようにまとめ、世界にぶつけてみたい」。そう熱く語る山本の目線は最初からグローバルにある。
サマリーを始めてみると、まるで海外のサービスかと見まがう。「have」「want」を含め、あらゆるメニューの単語が英語なのだ。そのためか、すでに海外ユーザー比率は全体の15%と、駆け出しの和製サービスとしては圧倒的に高い。レディー・ガガのスタイリストもユーザーの1人。このつてをたどり、レディー・ガガ本人とも交渉をするというから驚きだ。山本の夢は膨らむ。
「レディー・ガガやカニエ・ウェストなんかもユーザーになってほしいなぁと。『VOGUE』『GQ』のブランド力ってやっぱりすごくて、交渉するところまではいけるんです。レディー・ガガが持っているスニーカーに世界中から何千、何万という『want』がついて、そこでメーカーや小売りが販売もできる。そんなモデルをつくっていきたい」
サマリーはフェイスブック、ツイッター、mixiいずれかのアカウントがあれば、すぐにログインして使える。こうした巨大SNSとの連携機能を利用した衛星サイトは着実に増えている。巨大な街にリトルタウンが次々と生まれている印象。「モノ」をテーマとし、成長の兆しを見せる衛星サイトはサマリーだけではない。
「モノ」でつながるネットワーク
「モノを処分する時、『捨てる』『売る』に続く選択肢として『欲しい人にあげる』『交換する』があってもいいのでは」。元はてなの副社長で10年にkamado(東京・渋谷)を起業した社長の川崎裕一(35)は、無料の物品取引サイト「Livlis(リブリス)」を始めたきっかけをこう語る。
リブリスは、タダで「あげる」「ほしい」というモノの流通形態に着目した新手のサービス。ツイッターのアカウントがあればすぐに利用できる。ツイッターのユーザー同士が簡単に物々交換できるよう、必要な仕組みを外部で提供する衛星サイトだ。国内でこうしたサービスは初めてという。
10年10月にサービスを開始してから4万人超が参加、3万点以上の「モノ」が"出品"された。そこにお金は介在しない。「ほしい」ものをもらうためには「ポイント」と、相手が希望する場合は交換するモノが必要となる。ポイントはサービス登録時に得られるほか、「あげる」行為で増えていく。つまり、誰かに何かをあげないと、もらえないという仕組み。身の回りにある不要なモノの「有効活用」。それが川崎の狙いである。
「ネットオークションでは、『価格』がすべて。その後自分が大切に使ってきたものがどうなったか分からない。モノにはその人のこだわりや思い出がある。処分したいと思ったときに、よりその価値を分かってくれる人にモノが渡れば、両方が幸せな気分を味わえる」。1日に成立する取引はまだ10件ほどと少ないが、川崎の思いに共感するユーザーは着実に増えており、やりとりを通じて知り合ったユーザー同士が「女子会」を開催するなど、リアルな場での交流会も増えているという。
そして12年、川崎の「モノで人とつながる」サービスは進化を遂げる。2月上旬、自分が気に入った画像を収集、備忘録やアルバムとして一覧できるネットサービス「Clipie(クリッピイ)」ベータ版の提供を始める。フェイスブックのアカウントを使う衛星サイトだ。コンセプトは、「好きなモノは、見ていて、集めて楽しい」。インテリア、ファッション、ウエディング、トラベル、グルメ、スポーツなど13カテゴリーで、モノやイラスト、風景などの画像を閲覧、他の人と共有できる。
ここまでは、まさに「ピンタレスト日本版」。ただし川崎は、リブリスの運営で蓄積したノウハウを生かし、モノの販売にこだわったサービスを目指すと話す。「リブリスでは、既存のSNS上の人間関係(ソーシャル・グラフ)ではなく、モノのやりとりで生まれた人のつながり、つまり『インタレスト・グラフ』が生まれた。新サービスでは、その人の興味や関心でつながったつながりに注目し、ソーシャルコマース事業を進めたい」。近く、登録された商品の割引券を配るなど購入を促すしくみを導入するほか、企業スポンサーを募ったイベントの開催や、広告などにつなげる考えだ。
巨大SNSが活性化するほどマッチングの需要も高まる。そこに商機ありと考えるネット企業は多い。ユーザーの属性を絞れば、あらゆるマッチングサービスを生むことができる。ただ、徒手空拳で始めても埋没するだけ。自身も1年前まで学生だったという立場を生かし、就活生と企業のマッチングを始めたのが、昨年4月にソーシャルリクルーティング(東京・渋谷)を起業した春日博文(23)だ。
「フェイスブックでの就職支援」に特化
「20歳代前半は『実名』での情報発信に抵抗がない。人生を左右する一大イベントの就職活動でSNSを最大限に活用してもらう環境を提供したかった」。在学中に起業を決意した春日はサービスの狙いをこう語る。着目したのは、実名主義をうたうフェイスブック。11年2月、フェイスブックページ「ソー活」を立ち上げ、就活生向けの情報発信を始めた。同ページには70社の専用サイトがずらりと並ぶ。ソーシャルリクルーティングは、採用活動をする企業から広告料や企画提案の対価としてコンサル料を得る。
わずか1年たらずで、ソー活を通じ情報を得る就活生の数は約2万5000人となり、顧客企業の数は70社以上となった。3分の1はソフトバンクモバイル、ニトリなど上場企業が占める。昨年12月には、ソー活のほか、ITやブライダルなど業界に特化した計10のフェイスブックページを新たに立ち上げ、これらを登録する就活生は累計で5万人を超えた。創業1年未満のベンチャーとしては上出来といえる。
「学生団体などとのネットワークを生かし、口コミで学生ユーザーの登録を一気に増やした。それが『優秀で熱心な学生を採りたい』という企業への訴求ポイントになった」。若さが武器だと強調する春日。ただし就活生向けの情報サービスとしては、老舗の「リクナビ」や「マイナビ」が先行する。昨年8月に文部科学省が発表した調査によれば、12年3月に卒業を予定している大学生は約55万人。リクナビは「毎年約55万人の登録があり、就職活動する学生のほぼ100%が活用している」(リクルート広報担当者)といい、圧倒的な存在感を誇る。そうした先達を前に、何を強みとしていくのか。
「ソー活」を使う就活生は、フェイスブック上で採用担当者と直接やりとりできるほか、自分がつながっている友達がどの企業に関心を持っているかが分かる。「友達があの企業に興味を示しているから行ってみよう」と説明会に登録する学生も多いという。就活だけではなく、学生生活全般の記録や友人とのやりとりが残るフェイスブック。春日は、エントリーシートでは見えない、生の「顔」があるからこそ採用に活用したいと考える企業も増えていくともくろむ。単なる情報発信ではなく、まさに就活生と「交流」できるのも、採用企業にとっては魅力となる。フェイスブック上に採用ページを開設済みの企業は1000社を超えた。今後数年で、フェイスブックを就活に活用する学生数はリクナビなどと肩を並べる数字になる」。春日はそう語る。
企業と学生をつなぐ「場」を提供
今年1月、総勢約500人の学生が日立製作所の新卒採用の担当者に質問をぶつける「ソーシャルインタビュー」が開催された。舞台はフェイスブック上に設けられた日立の採用ページだが、ソーシャルリクルーティングが黒子として活躍した。日立はソー活の顧客企業の1社でもある。
「日立で改善しないといけないところは?」「日立で働かなければ味わえない仕事の醍醐味とは?」……。寄せられた質問に、採用担当者が直接、回答した。こうしたやりとりが、限られた時間と場所でしか接点を持つことができなかった企業・学生双方に出会いのチャンスを広げている。ソー活の顧客企業の1社、模型を製造する中小企業、ジェイ・エム・シー(横浜市)も、「これまでの新卒採用サイトでは、学生から直接質問が来ることはなかった。そもそも、中小企業のページは学生の目に触れられることが難しかった。このサービスは、実際に学生とやり取りができる」と満足げだ。
ソーシャルリクルーティングは12年、顧客企業向けの新サービスで攻勢をかける。同社は学生向けに、フェイスブック上の基本情報に加え「自己PR」などを付加した専用の履歴書を作成できる衛星サイト「ジョブリング」の提供を始めた。今後、広告料を払う顧客企業が閲覧できる有料サービスを開始する。すでに学生が登録した履歴書は5000を超えた。
今年は地方の営業所拡大に加え、海外の人材獲得支援も本格化させる。まず乗り込んだのが中国だ。昨年12月、ソーシャルリクルーティングは中国のSNS最大手「人人網」と提携し、日本企業向けの採用支援を開始した。顧客企業の採用ページを人人網に開設、中国人の就職希望者による登録情報を企業に提供する。
若年層を中心に利用者が1億人以上という人人網を活用することにより、企業が優秀な中国人学生にアプローチできるという訳だ。中国人の学生にとっても、自分の強みなどを直接日本企業にアピールできる場所となり得る。
春日が目指すのは、「アジア1のリクルーティングカンパニー」。中国の次に見据えるのは、ベトナムやインドネシアだ。今年中には日本企業の要望に合わせ、現地の学生向けに採用情報を発信できる体制を整える考えだ。
「学び」の基礎、人をつなぐ
巨大SNSの軒先を借りて人材のマッチングに挑むソーシャルリクルーティング。一方、自社のプラットフォームで「先生」と「生徒」のマッチングに挑むサイトも、巨大SNSの陰で地道に成長している。「プライベートレッスン」の講師を紹介したり、講師と生徒、あるいは生徒同士のコミュニケーションを支援するサイト「Cyta.jp(サイタドットジェーピー)」だ。
「自分の経験を振り返ると、『しっかり学んだな』と思えるのは、教科書やカリキュラムのよさというより、魅力的な『人』との出会いや対話だった」。サイタを運営するコーチ・ユナイテッド(東京・渋谷)を創業した有安伸宏(30)は、そう振り返る。有安はユニリーバ・ジャパンを経て、2007年1月に起業した。
サイタは、高いスキルを持つ人と、学びたいと思っている人をマッチングするサイト。レッスンの種類は、ギターやドラムといった楽器やカメラなど趣味領域から、簿記やパソコンのデザインツール「イラストレーター」など資格や語学まで多岐にわたる。主な「教室」となる場所は、カフェやレンタルスペース、講師の自宅など。料金は1時間3600~4800円の範囲で設定し、一部をサイタが手数料として得る。
サイタがサービスを開始したのは昨年6月。今年2月時点で、サイタを通じて講師と出会い、対面でレッスンを受けた生徒の累計は約1万2000人となった。07年からリクルートも同様のマッチングサイト「おしえるまなべる」を運営している。その生徒数は約1万6000人。わずか9カ月で業界大手の類似サービスに肉薄する実績を上げた背景には、講師の選抜を厳しく管理し、講師や生徒を結びつける「ソーシャル」機能を充実させたことがある。
他の講師と生徒のやりとりを公開
サイタは単なるマッチングサイトにとどまらない。講師と生徒に学習記録や各種連絡のための機能を提供したり、生徒同士が講師やレッスン内容について対話できるようにしたりと、「学び」に関するコミュニティー作りを重視している。そこには、有安の「出会いから学びが生まれる」という強い思いがあるからだ。こうした意味で、学びに特化した新手のSNSと見ることもできる。
例えば「オンライン学習コミュニティ」と呼ぶ機能では、他の講師や生徒のやりとりを閲覧することができる。「ちゃんと宿題進んでますかー」。英会話のレッスンを受講している生徒のところに、講師から専用ページにメッセージが届く。「先生から直接話しかけられるので、やる気がでる」「同じ趣味を持つ人とネット上で話が弾む」と生徒からは好評で、他の生徒にとっても講師選びの参考ともなっている。こうしたソーシャル機能が透明性を増し、生徒の安心感につながっているようだ。
講師の顔や授業スタイルを公開した上で、生徒への安心感をさらに高めるためにこだわっているのが、講師の「品質保証」だ。サイタに登録される講師はすべて、サイタ側が出向き、面接した上で採用された「厳選講師」。合格するのは11人に1人と狭き門で、採用後もサイタ側の社員が生徒になりすまし評価する「覆面調査」を実施。そのため登録している講師は約1600人と、リクルートの7000人弱に比べ少ないが、「同じ先生に習っている生徒同士の間でのコミュニケーションが活発に行われている」という。
12年、サイタは活動エリアを一気に広げようと画策している。現在、レッスンの実施場所の約半数が関東。だが今年は、地方の講師の採用活動を強化し、全国区を目指す。今は対面レッスンが原則だが、今年中をメドにスカイプを使った「オンラインレッスン」機能も導入する計画だ。そして、海外にも打って出る。
「台北やソウル、バンコクなどのアジア都市部でのサービス展開も計画している。2013年までに対面レッスンの受講者を100万人規模に増やしたい」。独自のコミュニティーを立ち上げた有安は、そう期待を膨らます。
「専門業者」に商機
国民の約半分がフェイスブックを利用している米国に対し、日本ではSNS最大手、mixiの登録ユーザー数は国民の2割ほどの、約2600万人。月に1回以上利用する比率では国民の1割強にとどまる。SNSが国民の生活インフラとなりつつある海外の状況を見る限り、日本での参入余地は大きいといえる。
一方、巨大SNSの利用者数増加は当分のあいだ、止まりそうにもない。世界で8億5000万人を抱えるフェイスブックは、新規株式公開(IPO)によって、その勢いを加速させている。調査会社のニールセン・ネットレイティングス(東京・渋谷)によれば、昨年12月の国内のフェイスブックの利用者数(家庭・職場からのパソコンアクセス)は1254万人。PCからのアクセスに限れば、すでにmixi(同812万人)を超えている。
しかし、巨大SNSが肥大化するほど多様なネット上の「住民」を抱えることになり、すべての人の欲求を満たすことが難しくなる。年齢や興味・関心など多様な属性を持つ住民に向けた「専門業者」のニーズは増す一方だ。こうしたうねりの中で、ネット企業にとってはインターネットが勃興してから何度目かの商機が訪れているといってよい。コミュニケーションのインフラに育ちつつあるSNSは、いつでもどこからでもアクセスができるスマートフォン(高機能携帯=スマホ)との相性が良く、その飛躍的な普及も追い風だ。日本は商機に満ちあふれている。
(電子報道部 杉原梓、井上理)
(次回は13日に掲載予定)