日本が買うLNGは本当に割高か 日韓で価格逆転
日本が輸入する液化天然ガス(LNG)は割高とされる。火力発電用の燃料費抑制にはこの引き下げが急務だ。調達改革の様々な取り組みが始まっている。だが、日本は本当に買い負けているのか。市場構造を冷静に見極めることも必要だ。
6月以降、日本の輸入価格が韓国を下回る
「日本は韓国より1割ほど高く天然ガスを買っている」。今春、東京電力会長に就いた数土文夫氏は、東電にコスト意識と国際感覚が欠ける例として繰り返した。
確かに日本が買うLNG価格(通関ベース)は韓国より高かった。韓国では政府系の韓国ガス公社が一元的にLNGを契約、輸入する。日本では電力・ガス会社ごとに調達する。この違いが購買力の差を生んでいると説明されてきた。
韓国ガス公社の調達量は年間約4000万トンで、火力発電分野で包括提携に踏み出す東電と中部電力の調達量もあわせるとほぼ同規模になる。日韓の価格差は、日本の電力再編を促す材料に使われてきた。
その前提が崩れている。9月時点の韓国の輸入価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり16.6ドルであるのに対し、日本は15.7ドルと5%ほど安い。6月以降、日本の輸入価格が韓国を下回る状態が続く。
日本の調達努力ばかりではない。韓国の輸入価格が上がったのだ。韓国の調達価格が安かったのは2000年代半ばの需給が緩んだ時期に契約した割安案件の比率が、日本より高かったためだ。「まとめ買い」の成果ではない。
韓国ではマレーシア、ロシア、イエメンなどとの割安契約が去年から今年にかけて契約の見直し時期を迎え、現在の市況にあわせた価格に引き上げられた。この結果、オマーン産などの割安契約が残る日本と逆転した。
ただし、アジア全体で見れば、LNG調達価格は米欧の天然ガス価格に比べて割高だ。米欧との価格差である「アジアプレミアム」の縮小はアジア共通の課題だ。原油価格と連動してLNGの値段が決まるアジアの価格決定方式の見直しを求める機運が高まっている。
原油価格の下落で揺らぐ前提
原油価格の下落でこの前提が揺らいでいる。アジア向けの指標原油であるドバイ原油は1バレル100ドル超から、85ドル近辺へ2割前後下がっている。日本向けのLNGに原油価格の下落分が反映されるのは来年初めだ。現在、100万BTUあたり16ドル程度で輸入するLNGは「13ドル程度まで下がる」(エネルギー関係者)との見方もある。
「シェールガスは安い」と言われる。市場で価格が決まる米国の天然ガス価格は4ドル前後で、これにLNGへの加工費や輸送料などを加えると11ドル程度となる。価格優位性は失われつつある。さらに原油相場が下がり、米国の天然ガス価格が上昇すれば、原油連動のLNGのほうが安くなることもありえない話ではない。
スポット価格に限れば、日本への到着価格は9月に11ドル程度まで下がった。冬場の需要期を迎えて相場は反転しているが、今後、米国やアジアなどで新しいLNGプロジェクトの生産が始まればアジアの需給は緩むとみられている。
硬直的なLNGの取引慣行に風穴を開けるシェールガス輸入の意義は大きい。重要なのはシェールガスは安いという思い込みは捨て、LNG調達を多様化する手段の1つに位置付けて売り手との交渉力を高めることだ。
(編集委員 松尾博文)
[日経産業新聞2014年10月30日付]
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