がんと「付き合う」生活へ、就労支援や緩和ケア重要に
がんと診断され、治療を始めてから5年後に生存している人の割合(5年生存率)は医療の進歩で6割近くまで上昇している。厚生労働省の推計によると、がんを治療しながら働く患者は約32万5000人。働けるのに治療に専念しなければならないと考えて退職するケースも多い。がん患者の就労支援が求められているほか、痛みを和らげる「緩和ケア」の重要性も高まっている。
2001年に乳がんと診断された東京都内の女性(54)は、昨年肺への転移が見つかったが、出版社に勤め続けている。「仕事で得られる生きがいや治療費のことを考えると、簡単に会社を辞めなくて良かった」と振り返る。
厚生労働省が10年の国民生活基礎調査を基に推計したところ、働きながらがん治療を受けている人は約32万5000人。一方、新規にがんと診断される人は年約80万人で、うち20~64歳が約25万人に上る。
厚労省の12年の調査によると、診断後に患者の約23%が元の職場を退職している。医療関係者は「実際には早期復帰が可能なのに、治療に専念することを考えて離職する場合も少なくない」と指摘。仕事を失ったことで経済的に困窮したり、生きがいを無くしたりするケースも多いという。
このため厚労省は今年度から、全国約400カ所にあるがん診療連携拠点病院で、医師を通じてがん患者が早急に仕事を辞めないよう呼び掛ける取り組みを始めた。
治療を受けながら仕事を続けられるよう、勤務先の産業医や人事担当者らと連絡を取ることを医師や看護師に求める。同省担当者は「今後は全国の患者が利用できるよう実施病院を増やしたい」と話している。
患者が治療と仕事を両立できるよう、同省は企業に対し、負担の少ない職場への異動や、病院に行く日を有給休暇扱いにするなどの支援策も求めていく方針だ。
一方、がん患者の痛みの緩和や生活の支援を中心に実施する「緩和ケア病棟」の存在も大きくなっている。
NPO法人日本ホスピス緩和ケア協会によると、今年6月現在、同病棟は全国で308施設(6182床)。10年前と比べると施設数、病床数ともに2倍以上だ。
緩和ケアに詳しい定山渓病院(札幌市)の中川翼院長は「手術や抗がん剤などの治療が患者にとって苦痛になることもある」と指摘。「治療が始まった段階で患者の年齢や経済的な背景などを考慮し、どのような治療が患者の幸せにつながるかを医師、患者、家族らで検討する必要がある」と話している。