40歳からの英語学び直し 丸暗記より効果的な方法
大学卒業から15年、学んだ英単語の多くを忘れてしまい、ここ数年は英語教材を見るだけで憂鬱だった。苦手意識を薄くするため、今回は英単語に焦点を当て、短期間にできるだけ多くの単語を覚える方法を探った。
無料アプリで「マイ単語帳」
思いついたのがスマートフォン(スマホ)の活用だ。無料の英語ニュースのアプリケーション(アプリ)は多い。これを読み、わからない単語を辞書アプリに記憶させて登録し、自分専用の単語帳にした。紙の単語帳をスマホに置き換えたイメージだ。ニュースには実生活で使う単語が多いはずだし、教材費も節約できる。
最初、わからない単語の多さにはガックリしたが、その分だけ単語登録は進んだ。登録が1000語を超えたのを機に約10日間、通勤電車内や昼休みなど1日1~2時間の学習で、この1000語を覚えることを目指した。
初日は登録単語のテストを軽い気持ちで始めたが、予想外に時間がかかった。1000語のテストだけで2日目に持ち越したうえ、正答率も約45%。早くも挫折を味わったが、気を取り直してインターネットの無料テストにも挑戦した。
試したのは辞書サービスも展開するウェブリオ(東京都新宿区)の「語彙力診断テスト」。25の選択問題を解くと、正解した単語の難度や解答傾向などから、自分がどれだけの単語を覚えているかという「推定語彙」を算出する。
5回試すと、ヤマ勘で好成績が出た回が1度あったため5回の推定語彙平均は「6001~7000語」。同サイトでは「特待生」という比較的高い評価だが、実質成績はもっと低いと感じた。
2日間はテストで手いっぱいで、肝心の学習は進まない。専門家にコツを聞くことにした。「40歳から英語をものにする方法」(PHP研究所)などの著作がある就実大学教授の小池直己さんは「40歳前後から学ぶなら『暗記』の意識は捨てること」と忠告する。記憶力の衰えは実感したばかり。耳が痛かった。

ただ、年齢ですべての能力が衰えるわけではない。「社会経験を積むと文章や会話中の意味不明な言葉を推理をする力は高まる」(小池さん)。漢字の部首や前後の文脈から難解な専門用語の意味を大まかにつかむような感覚だ。小池さんは「母国語では当然のこの力を英語学習にもいかすといい」という。
多くの単語は先頭にくる「接頭語」、単語の本体部分といえる「語根」、末尾の「接尾語」と、複数のパーツに分解でき、意味を探るヒントがある。例えば、transcriptは「trans+script」。transは「移す」、scriptは「文書」といった意味で「うつる文書」→「写し」と考えられる。前後の文脈次第では「成績証明書」の意味も連想できそうだ。
小池さんは「わからない単語をいちいち辞書で調べるより、意味を類推しながら読み切る。その後、辞書で正否を判定するといい」とも話す。そこで改めて英語ニュースも読み始めた。覚えるべき登録単語はさらに増えたが、頭に入っている手応えも出てきた。
分野別に例文整理 復習はすばやく
7日目には新たな助言も聞けた。「英単語1300 高速メソッド」(宝島社)の著者、笠原禎一さんが「単語単独ではなく、同じ分野をグループで覚える。また、単語よりも文章で覚えるといい」と教えてくれた。早速、単語を「法律」や「医療」など分野別に例文を調べてノートにまとめると、頭が整理された気がした。しかも同分野の単語はパーツが似ている例も多く、単語分解の学習と相乗効果もあると感じた。
一方、単語の復習は「高速でやるのがコツ」(笠原さん)。常に速く思い出す心がけで集中力が生まれ、実際の試験中などにも単語が思い出しやすくなるという。

一連の助言に基づいて学習を終えた10日目。効果測定のため1~2日目と同じテストに臨んだ。スマホに登録した単語は1240に増えたが、うち約1180語に正解。ウェブリオ「語彙力診断テスト」も5回受験で平均「7001~8000語」に上がった。
短期学習としては何とか成果を得られたが、このままだとまた忘れそうだ。同時通訳者の関谷英里子さんによれば「読む・聞くというインプットと、話す・書くのアウトプットを常に繰り返すことが大切」。アウトプットは難しく感じるが「『ランチは何にしよう』など、ふと思ったことを心の中で英語にしてみるのもいい練習。話すこと、書くことに特化したテストもあるので、それに挑戦してもいい」(関谷さん)。
自分なりの工夫をすれば、英語の学習機会は日常生活のいろいろな場面にある。試すべき勉強法はまだまだあると気付いたことが、覚えた単語以上の収穫だったかもしれない。
今回、学習法の助言を得ようと専門家と話して最も印象的だったのは、英語のプロも語彙を増やしたり表現を磨いたりするためには日々、自分なりに工夫をして学習しているということだった。
まさに、Rome was not built in a day(ローマは1日にして成らず)。懸命に励んでも短期学習は長い道のりの1歩目でしかない。ただ踏み出せば苦労もあるが、楽しさや達成感もある。この調子で何とか2歩目も歩み出せればよいのだけれど……。
(堀大介)
[日経プラスワン2013年6月15日付]