非正規雇用の待遇 性別と働き方にジェンダーバイアス
男女 ギャップを斬る(池田心豪)
いわゆる非正規雇用の待遇改善が盛んに議論されているが、パート・アルバイトや派遣社員の低賃金・不安定雇用は今に始まったことではない。それがなぜ今問題とされるのか。『日本労働研究雑誌』7月号が「性別・年齢と非典型雇用」という特集を組んでいるが、掲載されている一連の論文を読むと問題の背景がよくわかる。2本紹介しよう。
政策の歴史を解説した濱口桂一郎氏の論文によれば、非正規雇用問題の源流は戦前の臨時工に遡ることができる。だが、戦後に臨時工が減り、代わってパートが増えるとその低い待遇が問題にされなくなる。理由は臨時工が成人男性の問題として認識されていたのに対し、パートは家計補助的な主婦の働き方とされていたことによる。また事務職の登録型派遣は結婚退職した女性がその後に就くことを想定して制度がつくられたという。
アルバイトはもともと学生の働き方であったが、フリーターが増えても正社員の賃金が低い若年期はあまり問題にならなかった。しかし、年齢を重ねてなお低賃金に留まる年長フリーターが増え、若い男性の「派遣切り」が社会的関心を集めたことを機に非正規雇用は政策的な問題となった。
主婦パートの低賃金・不安定雇用が問題にならないのも男性の年長フリーターや派遣切りが問題になるのも、ともにジェンダー・バイアスに満ちた話なのだ。
そうした性別と働き方の関連性が日本は特に強いことを、岩上真珠氏の論文は海外との比較によって明らかにしている。韓国やイタリアは性別規範の強い国として有名だが、これらと比べても日本は性別と雇用形態の結びつきが強い。男性は未婚、女性は既婚に非正規雇用が多いといったように婚姻と雇用形態の結びつきも強い。
だが、昨今は未婚化により自身の収入で生計を立てる未婚女性の非正規雇用が増えている。また離婚率の上昇によって既婚女性も貧困に直面するリスクが高まりつつある。その意味で主婦パートなら問題ないともいえない。
パート・アルバイトや派遣社員を若年期の一時的な働き方や既婚女性の家計補助的な働き方とするイメージから脱し、経済的に自立できる待遇を実現することが課題である。
〔日本経済新聞朝刊2016年7月16日付〕
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