1968年リリース、
音楽をアストル・ピアソラ、詩をオラシオ・フェレールが担当したタンゴによるオペラ(スペイン語では「オペリータ」というみたい)のピアソラ自作自演盤、CD2枚組です。ピアソラ生涯きっての大作として名前だけは知っていたのですが、とにもかくにも幻のレコードという事で、昔はまったく聴く事が叶いませんでした。ところがある時にタワレコのエサ箱を眺めていると…おおお、CD化されているのか?!というわけで、迷う事なく買ったのは今から30年近く前の事。そうそう、気をつけないといけないのは、このオペラは何度かCD化されていますが、ピアソラ本人の実演でないものが色々とあるので、最初に聴くときはピアソラ自作自演のこのジャケットのものがおすすめです!好き嫌いや、ピアソラ自作自演のものがベストであったかはともかく、まずは本人のものから聴かないとね(^^)。
最初に聴いた時の感想を言うと、音楽以前に録音がショボくて聴く気になれませんでした_| ̄|○。50~60年代のピアソラのレコードで良い音のものなんてほぼないので、ある程度は覚悟していたのですが、それにしたってこれはショボすぎ、きつかったです。うう。
音楽の方も、良くも悪くもピアソラの音楽だな、みたいな(^^;)。長調か短調しかなくて(あ、これはパッと聞きなので間違ってるかも)、リズムはタンゴ的なものが多くて、なんといえばいいのか…ポピュラー音楽なんですよね。。
作曲面で唯一面白かったのは、レクイエムのように響かせる所から徐々にアッチェルしていく部分までの終曲「Tangus dei」ぐらいでした。そうそう、齊藤徹さんの『
Tetsu plays Piazzolla』ではじめて知った曲「Fuga y misterio」がブエノスアイレスのマリアの中の1曲だった事は、久々に聴いて初めて思い出しました(^^;)。聴いて思い出す事って意外とありますが、人間の記憶って面白いです。聴くまで完全に忘れてる上に、聴くと思い出すんですから。
面白かったのは、オラシオ・フェレールの詩でした。スペイン語の音楽詩劇となれば、なんとなくカルメンっぽい悲劇的な庶民の物語かと思いきや、けっこう象徴的な詩なんですよね。マリアという女性がブエノスアイレスという町全体の事のような。たとえば、さっきあげた終曲「Tangus dei」の歌い出しはこんな感じ。
Tres campanadas:
trás los misales, pican moteles las derrotadas
y alegres nalgas de las matronas: Laurel con ajo.
3 つの鐘 ミサを食してモテットをつつくのは、夫人の尻の幸福、ニンニクと月桂樹。
Hoy es Domingo, y las brujas se espiran, porque asomados
del tuco les tiran soles los chicos y los payasos.
この日曜、魔女は死に、ミートソースから足の裏を投げる少年たちとピエロ
僕のひどい訳なのであまり信じないで欲しいんが(^^;)>、これは面白かったです。ブエノスアイレスという南米の港湾都市の歴史自体がドラマチックなものじゃないですか。しかも当時のアルゼンチンって軍事政権時代なので、もしかすると間接的な表現にせざるを得なかったのかも知れません。他にも、19-20世紀の南米文学ってけっこうアヴァンギャルドなので、そのへんの色もあったのかも。いずれにしても詩の部分では、いい年してもまだ「君のこと守りたい」とか言い続けるような白雉化した大衆文化としての西側ポピュラー音楽と隔絶した素晴らしさ。あ、そうそう、このCDのブックレットには、詩は書いてありませんでした。僕はクレーメルが同曲を録音したCDのブックレットで読みました。
というわけで、ピアソラといえばこれを最高傑作に挙げる人もいる「ブエノスアイレスのマリア」ですが、僕的には、少なくともこの録音では音楽を面白いとは思えず、詩に面白さを感じた作品でした。でも、心のどこかで「録音さえ良ければ面白かったのかも」とずっと思っていたんですよね。で、ヴァイオリニストのギドン・クレーメルがこの作品を全曲録音した時に、またしても飛びついてしまったという。。その感想は…この話は、またいつかしようと思います(^^)。
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