3冠バイエルン、さらに充実 新監督が柔軟に大改革
欧州の主要リーグは前半戦を終え、年末年始も休まないイングランドを除くリーグは冬の中断期間に入った。ここまでの欧州全体の戦いを振り返ってみると、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の充実ぶりが目を引く。
■グアルディオラ監督、新概念を導入
今季はバルセロナ(スペイン)の黄金期を築いたスペイン人のグアルディオラを監督に迎えた。昨季、国内リーグ、ドイツカップ、欧州チャンピオンズリーグ(CL)の3冠に輝いたチームの指揮を引き継いだのだから、普通なら新監督は就任当初はチームをいじらない。ところがグアルディオラ監督はドイツになかった新しい概念を持ち込んで、大改革を行った。
ドイツといえば、型をがっちり決めてしまって戦い続ける傾向が強い。選手を入れ替えるにしても、SBというポジションにはSBの選手を入れる。トップ下の選手をSBに入れるようなことはしない。ドイツのサッカーは型にはまっている。
グアルディオラは違う。たとえばバイエルンでもドイツ代表でも不動のSBだったラームを中盤の底(センターハーフ)に置いてしまった。代表選手ともなればプライドが高いので、「今さらSB以外はやりたくない」と言ったかもしれない。しかし、ラームはいわゆるアンカーとして見事に攻守のバランスを取り、攻めを構成する役を果たすようになった。
■固定観念なし、人と全く違う発想で
同様に、チアゴをアンカーとして使うなどしているし、ラームの代わりに右SBに入れたラフィーニャが活躍している。多くの選手が複数のポジションをこなし、だれがどこに入っても問題がない。
それにしても、ラームを中盤の底に置こうと考える監督がほかにいるだろうか。グアルディオラという指導者は人とは全く違う観点で選手、サッカーそのものを見詰め、人とは全く違う発想でものごとを考えている気がする。固定観念がないところがすごい。ここまで柔軟になれたのは、バルセロナで育成の仕事をしていたからかもしれない。
グアルディオラのサッカーには型がない。ポジションは流動的で、たとえばトップ下には必ずクロースがいなければいけないというのではなく、だれかがそこに入ればいいという考え方だ。パスをつないでいくには、特定の場所に特定の選手がいなければならないのではなく、だれかがそこにいればいい。こういう考え方は、これまでドイツにはなかったはずだ。
選手たちは最初のうちは「そんなこと、できるか?」と思ったかもしれない。しかし、開幕から1カ月余で違和感がなくなった。
■国内リーグ16戦無敗、しっかり結果
バイエルンの選手の質が高いから、短期間の間にグアルディオラのサッカーを理解し、体現できたという面はある。しかし、こういうことができたのは、やはり監督の能力が優れているからに違いない。
おそらく相当細かいところまで説明し、納得させた上でプレーさせているのだろう。選手の好奇心、向上心、探求心をうまくくすぐっているように見える。ロッベンもリベリもムラがなくなり、楽しそうにプレーしている。それはカリスマ性のある監督が持ち込んだサッカーが選手に充実感をもたらしているからだ。
もし、結果が出ていなかったら、選手の不満が噴き出していたはず。しかし、バイエルンは国内リーグで16戦して無敗。42得点で、失点はわずか8。向かうところ敵なしで他を圧倒している。これでは選手の不満が出るはずがない。監督は厚い信頼を獲得した。
■モウリーニョ監督も能力の高さ示す
監督の選手起用が柔軟なので、チーム内の競争が激しくもなっている。ロッベンもリベリもシュバインシュタイガーもへたをすれば外される。その緊張感もプラスに働いている。
このままいくとバイエルンが欧州CLを連覇する可能性が出てくる。いったい、どこがバイエルンを止めるのだろうか。そこが後半戦の最大の注目点になる。
グアルディオラとは全くスタイルが違うが、イングランドのチェルシーに復帰したモウリーニョ監督にもあらためてチームマネジメント能力の高さを感じる。
今季のイングランドリーグは大混戦でリバプール、アーセナル、マンチェスター・シティー、チェルシーなどがしのぎを削っているが、何となくチェルシーが優勝するような気がしている。それはなぜかといえば、チェルシーにはモウリーニョがいるからだ。
■「今日勝つために何をすべきか」重視
美しさを求めるアーセナルのベンゲル監督とは対照的にモウリーニョはきわめて現実的だ。どのチームを率いても堅守速攻を基本とするが、そういう中で「今日勝つためには何をすべきか」に重きを置く。
この相手に勝つためには、どういう戦い方をしたらいいのか、そのためにはどの選手が必要なのか。グアルディオラとは全く違う理由で、試合によって選手を大幅に入れ替える。
相手については非常に細かいところまで調べ尽くし、選手に細かいところまで指示を授ける。柏のネルシーニョ監督と手法は似ている。そこまでするから、大一番や五分五分の試合で勝ち点を拾うことができるのだろう。アーセナルにはこの厳しさが欠けている。
■人心掌握術優れ、選手から不満漏れず
モウリーニョは勝つためにはランパードのようなビッグネームでも外すことがある。オスカルやアザールが好調でも起用しないことがある。それでも不満が漏れてこないのは、人心掌握術に優れているからだろう。
手を尽くして勝利をものにし、選手たちに「ほら、どうだ、オレの言うとおりにしたから勝っただろ」というのがモウリーニョの手法だ。グアルディオラのように最先端のサッカーを示しているわけではないが、結果的に自分のサッカーを選手にやらせてしまい、結果を残すという点では共通している。
2シーズン前までグアルディオラが率いていたバルセロナは今季、アルゼンチン人のマルティノ監督を迎え、アトレチコ・マドリード、レアル・マドリードと優勝争いを繰り広げている。
目に付くのはメッシへの依存度が高くなっている点だ。現在、メッシが故障で戦線を離脱。その影響は少なからず出ている。と同時に戦い方は現実的になってきた。
グアルディオラ時代と違い、いまは後方からのロングボールが増えている気がする。3~5メートルの短いパスをつなぎ、ボールの保持力で勝負するのは変わっていないが、余計なリスクは回避するという考え方なのだろう。
■若手育たず、転換期が近いバルサ
しかし、バルセロナのことだから現実的な路線を進むわけにはいかない。バルセロナには美しくなければ、勝っても仕方がないという譲れぬ哲学がある。監督にすれば、そこが難しいところでもある。
チームを見渡してみると、シャビに衰えが見え、イニエスタもいまの力をどこまでも保てるわけではない。では、その2人に代わる絶対的な選手がアカデミーから育ってきているかというと、そうでもない。そろそろバルセロナは転換期を迎えるのではないか。
(元J1仙台監督)