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ダイヤモンドの人間学(広澤克実) 選手も興味薄れる? オールスター戦の課題

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選手が出たいと思う憧れの舞台。誰もが見たいと思う夢の対決。オールスター戦からそんなトキメキが薄れてきたのはいつ頃だろうか? セ・パ交流戦から時をおかずして行われるという間の悪さ、選ばれるべき選手が選ばれないファン投票……。選手をその気にさせるオールスターになるには課題が多い。

ステータス感じ、リーグを代表

私がオールスターに出ていた1987年から94年のあたりは、選手としてステータスを感じる舞台だったし、リーグを代表しているんだという意識も強かった。

「この場に選ばれた人間として恥ずかしくないプレーをしよう、そして力とワザの真っ向勝負をしよう」と心がけていた。

しかし、最近のプロ野球界は真っ向勝負の意味を勘違いしている。真っ向勝負というのは自分も相手もベストのプレーをするということだ。ところが多くの人が、投手にとって真っ向勝負とはストレートを投げることだと思っているようなのだ。

投手にとっての真っ向勝負とは、それぞれの投手の持ち球でベストのボールを投げることであるはずなのだ。たとえば、阪神の能見篤史のようにフォークボールやチェンジアップが得意という投手もいるだろう。巨人の菅野智之のようにツーシームとカットボールのコンビネーションの投手もいる。あるいは、コントロールが真骨頂という投手もいるだろう。

本来の真っ向勝負とは

自分にとって最高のピッチングを披露するのがオールスターだ。すべての投手がストレートの真っ向勝負というわけにはいかないのだ。にもかかわらず、プロ野球界の悪い風潮でマスコミにあおられて、いつの間にかストレートで勝負することが、オールスターにおける真っ向勝負の"スタンダード"になってしまった。

そもそも打者にとってはストレートという球種が一番打ちやすい。ストレートに照準を合わせることが打者の基本だからである。そこへもってきて、「ストレートを投げてこい」などと言うのは、言葉を変えると「俺が一番打ちやすい球を投げてくれ」と言っているようなものだ。

ただし、私が思うにストレートの得意な投手が、自らストレート勝負を宣言するのは例外だ。この場合はストレート勝負が純然たる真っ向勝負となる。

直球勝負、該当者見当たらず

2006年に藤川球児(当時阪神)が、直球だけでパ・リーグの強打者をねじ伏せたが、あの場合は藤川本人が「ストレートしか投げません」と宣言し、それを実行した。これは誰がどう見ても本物の真っ向勝負であって、非常に楽しめた。

藤川のストレートはファンの人たちを魅了した。プロの打者たちにも「藤川のストレートを打ってみたい」と思わせた。しかし果たして今、藤川のようなストレートを投げる投手がいるだろうか?

セ・リーグのエースといえば前田健太(広島)だが、彼の持ち味はストレートだけではなく、スライダー、チェンジアップ、カーブなど多彩な変化球を操るコンビネーションとコントロールである。そう考えると、直球だけの勝負を楽しめそうな投手はセ・リーグにはいない。

パ・リーグにも好投手はいるが、例えば田中将大(楽天)にしても、あのものすごいスライダーがあるから直球が生きるわけで、彼にとっての真っ向勝負はスライダーと直球、そして、彼のウイニングボールでもあるスプリットボールを組み合わせる投球ということになる。つまり藤川のようにストレートだけで真っ向勝負が成立する投手はざっと見渡したところ、見当たらない。

本音は「できれば休養にあてたい」

それでもどうしても直球だけの勝負がみたいというのなら、ホームランダービーさながら、ストレート限定対決を試合前にでもやればよい。その場合、打者もバットの芯に当たらなかったら、どんな結果であろうと「負け」にすべきだ。ストレート勝負で詰まったのなら、その時点で打者は負けである。それぐらいのルール設定でなければ公平ではない。

最近、選手にとってどうしても出たい舞台だったオールスターについて「本音を言えば、できることなら、休養にあてたい」と思う選手が増えてきた。

このように価値観が変わってきた背景にオールスターのファン投票の選考方法が関係している。

ファン投票が首をかしげるような結果になることは昔から多少はあった。しかし、さすがに規定打席に達していないとか、打率が2割5分に達していない選手は選ばれなかった。

この問題はひとつにはファン層の高年齢化にあるのかもしれない。一昔前のプロ野球ファンは、毎日地上波で放送されていることもあり、玄人(くろうと)が多かった。あたかも、自分が監督であるかのように野球を見ていた。だから、監督の采配や選手起用についても的を射た批判があった。

選手の"時価"、反映されにくく

しかし、プロ野球というコンテンツがローカル化していき、玄人ファンは減ってきたように思う。近年は細かいことにああだこうだとは言わずに、地元チームを応援して楽しもうというファンが増えた。

このこと自体は時代の流れだから決して悪くはないのだが、その結果、ファン投票でも、選手の現時点の成績がどうであれ、今までの実績なども評価に入れて、ひいきのチームの選手に投票するようになってしまった。選手の"時価"が反映されにくくなってきたのだ。

例えば今年でいうとセ・リーグの三塁手の宮本慎也(ヤクルト)。一昔前の玄人選考ならば、間違いなくエクトル・ルナ(中日)が選ばれただろう。

もちろん、選ばれた宮本が悪いわけではない。宮本がいい選手であるのは間違いないし、スターとしての実績もある。しかし、今年のオールスターに誰がふさわしいか、となると話は違ってくる。

野球への認識、ファンに変化も

打率が3割6分を超える選手を選ばず、規定打席に達していない打者が選ばれることは野球に対する認識が変わってきたということだろう。もし、何らかの理由でルナが選ばれなかったとしても、その次の選択はDeNAの中村紀洋であるべきだろう。中村は今シーズン、通算2000本安打を記録するなど、堂々3割をマークしている。

セ・リーグの外野手に丸佳浩、広瀬純の広島勢がファン投票で選ばれた。トップ当選のウラディミール・バレンティン(ヤクルト)はいいとして、この一角にはマット・マートン(阪神)の名があってしかるべきだろう。

丸、広瀬とも好選手である。彼らを選んだのも"民意"であり、結果を尊重したいが、このような結果だと選手がファン投票そのものにステータスを感じない。これは私の意見だけではなく、選手の多くの認識である。こうなってくると、どうしてもオールスターの価値は下がってしまう。

国政選挙でも「風」とか「流れ」で一方的な形勢になることがある。人間だから情緒的なものが入りこんで当然だけれど、野球の"選挙"の場合、打率や防御率など客観的なデータがあるわけだから、好き嫌いという部分に、もう少し的確な評価が加わってもいいと思うのだ。

どうしたら興味持ってくれるか

最近は地方球場での開催も目立つ。野球の普及のためといった理由だろうが、これもオールスターの価値を下げかねない。オールスターのチケットがプラチナチケットでなくなり、それがために「地方ならまだお客が入るはず」ということで地方開催を続けるなら、負の連鎖を生むことだろう。考え方があまりにも安易だ。

ただ、より根本的な問題はどこで開催するかではない。どうしたらファンの人たちが興味を持ってくれるかだ。地方で開催しようがフランチャイズの球場で開催しようが、要はファンに興味を持ってもらうオールスターにするためにはどうしたらよいかを考えるべきで、その発想が地方開催だけではあまりにも芸がない。

例えば、一つのアイデアとして今のセとパの対抗方式ではなく、選手の出身地方別に選手構成するというやり方もある。西(ウエスト)は 先発投手が 田中(楽天)、中継ぎに藤浪晋太郎(阪神)、 抑えに前田健(広島)なんてこともあり得る。

開催時期も改革のポイント

西の打線は1番西岡剛(阪神)、3番坂本勇人(巨人)、4番中田翔(日本ハム)、5番中村……。こういうオーダーになってくると、どうしても東(イースト)の方が戦力で劣るので、そこに外国人を入れてもいい。トニー・ブランコ(DeNA)やバレンティン、マートンやランディ・メッセンジャー(阪神)を入れて戦力を均等化し、試合を行う。もちろん、あくまでも一つの案である。

「オールスター」ではなくなってしまうかもしれないが、「オール外国人」対「日本人」でも面白い。3試合もあるのなら、1試合ぐらいは入れてもいいのではないか?

また、オールスターの開催時期も考えたい。交流戦が終わって間もないうちに行うのは時期としては最悪で、「この顔合わせがみたい」という対戦は一通り終わってしまっている。今年であれば藤浪(阪神)と大谷翔平(日本ハム)の対戦は甲子園でもう済んでいる。

昔はオールスターでもなければありえなかった"出し物"を、今は交流戦のなかで「先食い」してしまっている。これでは盛り上がるはずもない。こうした興行上の難点を考えていくと、どうしても改革せざるを得ないポイントに行き着く。

一流のビジネス感覚こそ必要

プロ野球はもっとファンに興味を持ってもらえる組織にならなくてはいけないということだ。その観点から言うと、コミッショナーは官僚や法曹界の人ではなく、ビジネスの世界で傑出した人物ということになる。

キャンプから日本シリーズまで、決まった行事を繰り返すだけでお客さんが来てくれる時代は終わった。野球人気を取り戻すには興行的な仕組みを練り直すべきで、そのためには一流のビジネス感覚を持ちあわせた人がコミッショナーにふさわしいと思う。

球界全体をプロデュースできる人を

例えば、ファーストリテイリングの柳井正さんやHISの沢田秀雄さんといったところが、コミッショナーになったらどんな改革をするのか非常に興味がある。また、日本航空を再建した稲盛和夫さんにコミッショナーをお願いしたらどうだろうか? ソフトバンクの孫正義さん、楽天の三木谷浩史さんも魅力的だが、それぞれ球団のオーナーということから、コミッショナーというには公平性に欠けるので、実現は難しいだろう。余談だが日産自動車のカルロス・ゴーンさんは役員報酬約10億円というから、残念ながら遠慮したい。

個人的な意見だが、次期コミッショナーはすぐれた経営感覚の持ち主に就任してほしいと切に願う。そもそも、今の野球界のコミッショナーへの就任依頼を快諾してくれる優れた経営者がいるのだろうかという不安は残るが、先細りしていく野球界を再生するためには球界全体をプロデュースできる人を選任しなければならない。このまま間違った人選を続けていけば、この先ますます厳しい事態に陥ってしまう。

(野球評論家)

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