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スポーツ選手のウエアは…契約を巡る複雑事情

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憧れの選手みたいになりたい――。ウエアは、そんなファンが気軽に選手気分を味わえるアイテムだ。そのため、メーカーは人気選手の契約獲得に励む。ただ、どの競技でも代表クラスになればウエア提供は受けられるが、肖像権契約を結べるのは一部の選手だけ。競技生活を支える収入にもなるから、選手の側も必死だ。たかがウエア、されどウエア。そんなウエアを巡る複雑な事情をのぞいてみた。

錦織、アディダスからユニクロに

男子テニスの錦織圭(フリー)は、11年1月から15年12月末日までの5年契約で、カジュアル衣料であるユニクロのウエアを着用している。ユニクロはテニスのプロ使用ウエアは販売しておらず、「正直、契約する前は不安だった」と錦織はいう。

だが、「これから世界に打って出るブランドのアンバサダーとして期待した」(柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長)というユニクロは、錦織のためだけの特別チームを編成。契約金も「それなりに圭を評価してくれるだけのものを用意してくれた」と錦織の所属事務所のIMGは話す。

それまで錦織はアディダスを着用していた。アディダスは日本法人と結ぶ契約と、ドイツ本社直轄のグローバル契約の2種類ある。錦織は後者。ちなみにテニスではクルム伊達公子(エステティックTBC)と添田豪(空旅ドットコム)は前者だ。

世界ランク下がると90%近い減額のケースも

グローバル契約は国内だけでなく世界規模での露出がある。日本法人契約と比べて契約金、ボーナスは破格だ。しかし、約束した成績を残せなかったときの減額も大きく、ケガなどで世界ランキングが下がると90%近い減額のケースもあるという。

錦織は今でこそ世界ランク20位台だが、これまでを振り返ってみてもケガなどでの浮き沈みがあった。

このため、錦織はアデイダスではなく、「日本ナンバー1」にふさわしい金額と特別な扱いを求めて、ユニクロを選択した。

日本法人は日本での展開を本社から請け負いながらも、契約は管轄外。「錦織選手の着用モデルは売れていたんですけれど……」。アディダスジャパン・スポーツパフォーマンス事業本部の菊池欣之さんは残念そうに話す。

"黒船"参入

ウエア競争が過熱したのは1990年代ぐらいからだろう。Jリーグが始まり、プーマ、アディダスなどサッカーの本場メーカーが本格的に参入してきた。

アディダスは99年、それまで日本メーカーの持ち回りだったサッカー日本代表ユニホームの権利をユース年代から一括で獲得。2001年には、ナイキが外資系では初めてプロ野球のユニホーム(松坂大輔=現レッドソックス=が当時所属していた西武)に参入。今ではアディダスが巨人に提供している。

「草の根レベルの活動も大切だけれど、人員もいないので」とアディダスジャパン・スポーツパフォーマンス事業本部の久保田万美さん。日本メーカーのように高校サッカーや少年野球などアマチュアへの地道な営業を通して、ブランドに慣れ親しんでもらうのは難しい。影響力のあるトップ選手やチームを"1本釣り"して、販促につなげる。

箱根駅伝に熱視線

そして今、外資系の熱い視線は、年明けの2日と3日に正味10時間以上にわたって放映される箱根駅伝に向けられている。大学スポーツは、OBを抱える日本メーカーが強いとされてきたが、今年、「新・山の神」こと柏原竜二を擁して大会新記録で優勝した東洋大など、ナイキ着用チームが増えている。

日本メーカーの関係者がため息まじりに口にする。「使うお金のケタが違う。かなわない」。

その資金力のすごさの一例は、テニスのトップ選手へのナイキの待遇だ。テニスは、ウエアメーカーのロゴ以外にも2つのスポンサーのロゴを付けることができるが、ナイキは自社ロゴしか認めない代わりに契約金を上乗せする。

ナイキの顔はロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、マリア・シャラポワ(ロシア)ら。スポンサーロゴでも1つが億単位で売れる選手たちだ。

「彼らにどれだけ払っているか想像して下さい。そうしたクラスの選手になると、たとえばシャラポワ選手の場合だと"マリアモデル"なども作ってもらえるので、そのロイヤルティーも選手には入ってきます」(IMGのビジネスデベロップメントの坂井秀行さん)。

もちろん勢いが陰ると容赦ない。「契約金なし、ウエアの支給のみ」となる。元世界ランク1位で02年ウィンブルドン覇者のレイトン・ヒューイット(オーストラリア)も、日本トップだった杉山愛も例外ではなかった。

"複雑"な五輪種目

五輪の日本代表公式ウエアは、ミズノ、デサント、アシックスの国内3社が分担して提供する。各競技の日本代表ウエアもこの3社提供が多い。

スケート、体操、卓球、柔道はミズノ、レスリングはアシックス、水泳はミズノ、デサント、アシックス3社持ち回り……。外資系もこのハードルは高く、アディダスが新体操、ナイキが陸上のジュニアと契約しているくらいだ。

日本代表として派遣された試合は、契約メーカーのウエアを着用する義務がある。たとえばフィギュアはミズノのジャージーに連盟スポンサーの「ニチレイ」「KOSE」などのロゴ入りウエアを、得点が出るのを待つ「キス&クライ」で着用しなければならない。テレビに映すためだ。

五輪競技の場合、選手が個人資格で出場する試合が少ない。このため、代表ウエアを担当しない限り、選手と個人契約するメリットは少ないのだが、最近、外資系が個々の選手と契約を結んでいる。

プーマはフィギュアの高橋大輔(関大大学院)、アディダスはフィギュアの村上佳菜子(中京大中京高)、バドミントンの潮田玲子、池田信太郎組(日本ユニシス)……。

高橋や村上が契約メーカーのウエアを着る機会は全日本選手権と練習だけ。潮田の場合は複雑で、日本代表はヨネックス、実業団ではユニシスが契約するウィルソン。個人契約を結んでいるアディダスを着る機会は練習のときと、全日本と全日本社会人選手権の2大会ぐらいしかない。

それでも十分効果はあるという。「新体操は"美しくなる象徴"であり、フィギュアの佳菜子ちゃんは同世代に響くものがある。世界を目指す彼女たちの練習風景をwebや店頭で見せる影響は大きい」(久保田さん)。

アディダスは女優の武井咲さんらとも結んでいるが、スポーツ選手をより身近な存在として感じる消費者もいるらしい。

もっとも、五輪競技においてビッグマネーを生むものは少ない。類推すると、日本法人との契約で新入社員の年収程度で契約する例も少なくないようだ。

真央ちゃんは例外

日本で最も影響力のあると思われる女性アスリートはウエア契約をしていない。フィギュアの浅田真央(中京大)は各社から送られるラブコールを断り続けている。

関係者によると、「ウエア契約をしてしまうと、着る服が限定され、ストレスになる。好きなモノを着たいから」。ウエアメーカーが浅田側に提示した額は他業種と1ケタの違いがあったそうだが、既に8社のスポンサーを持つ浅田だからこその選択ともいえる。

それでも、各社はウエアを送り続ける。浅田が時折、着るメーカーの関係者は話す。「その姿がテレビや雑誌に出たら、いい宣伝になる。自社製品を数点送るだけでいいのだから、契約を結ぶよりリーズナブル」。やっぱり"真央ちゃん効果"は絶大だ。

(原真子)

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