戦争トラウマ、国が初の実態調査 25年度に結果公開へ

太平洋戦争などで過酷な体験をした旧日本軍兵士の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関し、国が初の実態調査を進めている。「戦争トラウマ」とされ、戦時中に軍は患者の存在を公にしなかったが、近年は学術研究や家族による証言活動が広がる。残存するカルテや資料を収集、分析し、戦後80年の2025年度に関係施設で結果を公開する方針。
戦争トラウマはアルコール依存症や家庭内暴力の形でも表れ、当事者や周囲が苦しむことがある。旧軍病院を前身とする国立国際医療研究センター国府台病院(千葉県市川市)のカルテなど一部の残存資料を基にした研究事例があるものの、詳しいことは分かっていない。
国の調査は、厚生労働省が所管する戦傷病者史料館「しょうけい館」(東京)が実施。病院でのカルテ照会などのほか、元兵士や家族の体験、専門家の研究内容についても資料を集めて成果をまとめ、25年度に同館で展示する。
ただ、調査対象は既に国から戦傷病者と認められている人で、暴力や依存症の原因が戦争トラウマではないかと最近気付いたようなケースは含まれない。カルテなどの記録がない元兵士や、家族の長年の苦労といった実態まで把握できるかどうかは不透明だ。
問題を提起してきた「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」代表の黒井秋夫さん(76)は「体の傷は『名誉の負傷』とされたが、心の傷は本人にとって『恥』であり、症状などを申し出る人は少なかったのではないか」として、対象を拡大した十分な調査を求めている。
戦争トラウマを巡っては、米国ではベトナム戦争の帰還兵のPTSDが社会問題化。イラクやアフガニスタンに派遣され心身に不調を来した兵士の自殺も多発したとされる。〔共同〕