藤原ヒロシさん手がける新店 買い物は「3年後のため」
NIKKEI The STYLE
アパレルのジュン(東京・港)が、東京・原宿に洋服や雑貨のショップ、パン店やカフェが入った複合的なコンセプトストア「V.A.(ヴイエー)」をオープンした。空間は、約3年前まであったカフェ「モントーク」のしつらえと新しいものを融合。店頭には、ここでしか出合えないものばかりが並ぶ。ディレクションを担当した藤原ヒロシさんは「未来のための買い物」を意識したと話す。
1階では、Tシャツやスエットなどのアパレル、クッションや傘といった雑貨など、様々なブランドがコラボレーションしたものをはじめ、ヴイエーのために製作されたものを販売している。なかにはファッションブランド「UNDERCOVER(アンダーカバー)」のデザイナーの高橋盾さんや「WTAPS(ダブルタップス)」などのディレクターの西山徹さんが手がけたアイテムも。V.A.とは「Various Artists」を意味する。「いろんなアーティストのものを集めた。いろんなものが集まっているセレクト(ショップ)という感じ」と藤原さんは話す。
展開商品は随時変わっていくが、オープン時に登場したのが、例えばヴイエーと藤原さんが主宰する「FRAGMENT(フラグメント)」と「agnès b.(アニエスべー)」がコラボレーションしたアイテムだ。アニエスベーの定番のカーディガンは、フォルムやサイズ感などが通常とは異なりブルゾン風に。「男性も着やすいようにした」(藤原さん)そう。バッグなどに描かれているヴイエーやフラグメントの文字は、デザイナーのアニエス・トゥルブレさん本人が書いたもの。藤原さんにとって初めてのコラボレーションだといい「1980年代によく帽子をかぶっていたし、ボーダーもよく着ていたので、うれしかった」。
1834年創業のフランスの老舗のバッグブランド「Au Départ Paris(オーデパール・パリ)」とのコラボレーションは、定番のトートバッグに、フラグメントがグラフィックを載せた。「古いブランドで、今リニューアルするところと聞いて、面白いなと思った」。国内でもこれから展開が広がっていくといい、注目のブランドだ。
藤原さんはこれまでもルイ・ヴィトンやモンクレールなど、数々のコラボレーションを手がけているが、「基本的にはフィフティーフィフティー、あるいは先方の色が濃くなるようにしている」という。「せっかくなので、僕が好きな相手方のエッセンス、いいところをたくさん取り入れられるように」と考えている。
ものを作るときも買うときも、意識するのは「今」ではないという。「僕自身、将来着られるようなものを買うんですね。今着なくても、3年後に着られるだろうと思うもの。奥行きを持って買い物しているんです」。例えば、過去に展開され話題を集めたルイ・ヴィトンとシュプリームのコラボレーションアイテムも購入したが、まだまったく着ていないそう。「いつか着ようと思って未来のための買い物をしている」。それは、ものを製作する際も同様で、「売り切れちゃって2年後ぐらいに、『あのとき買っとけばよかった』みたいな雰囲気になるものを目指している」。
未来を見据えるのは「今はリバイバルみたいなものがなかなか存在しないから」という。誰もが常に新しい情報を発信し続ける中、リバイバルが起きる余地が少なくなってきたとみる。「昔は、例えばパンクとか、何らかのリバイバルがあった。いいタイミングで昔のものをもう一回出してきて着たり、もう一回音楽を聴いたり。そういうのが結構好きだったし、多分得意だったんです。その感覚がまだ残っている」。もう何年もの間、消費の傾向としては、「コスパ」や「タイパ」など、購入してすぐになんらかのメリットを感じたいという向きが強いが、少し先の自分や社会を想像してものと向きあう。時間軸を長く捉えると、買い物も特別になる。
2階には、店内で焼くパンを販売する「VAT BAKERY(バットベーカリー)」と、カフェを設けた。ストアの構想の「スタートはベーカリーからなんです」と藤原さん。「パンを焼いている匂いがするなかで買い物をするというのはいいなと思って」。以前、ニューヨークのあるショップで買い物をしていたときに、1階にベーカリーがあり、「吹き抜けのフロアで、パンのいい香りがするなかで『ナイキ』を見ていて、これめちゃめちゃ面白いなと思って。それをパクりました」。
1972年、この場所に日本初のオープンカフェ「カフェ ド ロペ」がオープンした。2002年から22年までは、「モントーク」という名のカフェだった。2階に上がっていく階段の床や天井のファンなどはそのときのまま。「僕が東京に出てきた頃から通っている場所。モントークになっても毎週のように通っていた。原宿のランドマークのような感じだったので、その面影をなくさないように」と、以前のしつらえを生かした。
カフェスペースの一部に、レトロな雰囲気の椅子とテーブルが置かれている。東京・神田で多くの人に愛され閉店した喫茶店「エース」の家具だという。名物だった「のりトースト」が好きで、藤原さんは30年くらい通っていたそう。たまたま訪れた日が閉店の日だったといい、家具を譲ってもらった。テーブルや椅子が自由に動かせるようになっているのは、ここを企業などに貸し出すことを想定しているためだ。「場所がすごくいいので、いろんな人にポップアップストアとして貸せるような状態にしておきたい」。要望に応じて、部分的に、もしくは一棟貸しもするという。
周辺はラグジュアリーブランドの旗艦店が軒を連ね、外国人観光客も増えた。藤原さんを中心に、「裏原宿」から独自のカルチャーが発信され一大ムーブメントになった1990年代から、原宿は大きく変わった。それでも、「今でも魅力的な街であることは変わらない」という。ただ、「どこも人でいっぱい」とも。ゆくゆくつくれないかと考えているのは、空港のラウンジのような場所だ。「原宿で働いている人とか、文化(服装学院)の学生とかが入れるような、エアポートラウンジのファッション版みたいなものができたらおもしろいなと。誰か、やってくれませんか?」
井土聡子
岡田真撮影
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