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生成AI、自動運転車の開発加速 仮想空間で公道訓練

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CBINSIGHTS
人工知能(AI)は自動運転システムの開発になくてはならない存在だ。生成AIにより、「レベル5(完全な自動運転)」車の公道走行はついに実現するのか。生成AIは従来のモジュール式ではなく、生のセンサーデータから運転判断を直接下す「エンド・ツー・エンド(E2E)」と呼ばれる運転システムも可能にする。スタートアップ、テック大手、既存の自動車メーカーが大規模言語モデル(LLM)など生成AIの進歩を以下の目的にどう活用しているかをCBインサイツがまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

・合成環境の活用による自動運転車の訓練コスト削減

・自動運転車の安全性と透明性の向上

・乗員と車両のやり取りやパーソナライズ化の推進

合成環境の活用による自動運転車の訓練コスト削減

公道走行の距離を積み上げることが自動運転の開発レースの主な特徴だが、走行訓練を加速する手段として仮想環境が登場している。これによりコストを削減しつつ、自動運転車の安全性を向上できる。

米ランド研究所の2016年の研究によると、こうした仮想環境の活用により、(数百億マイルではなく)数億マイルの走行で実社会ではもっと膨大な距離を走らなければ遭遇しないエッジケース(予想外のまれな状況)を含む様々なシナリオに自動運転車をさらすことができる。

例えば、米ミシガン大学が開発した仮想環境の訓練システムは、実社会の走行距離をごくわずか(1万分の1)に減らせることを実証した。

今では生成AIを活用し、こうした仮想訓練に必要な非常に詳細なシミュレーション環境を簡単かつ速やかに作り出せる。

例えば、自動運転トラックのワービ(Waabi、カナダ)は実社会の試験走行の大半を置き換えるため、生成AIを活用した仮想空間「ワービワールド」を構築した。投資家もこの技術の可能性を見過ごさず、ワービはこのほど、米ウーバーテクノロジーズと米コースラ・ベンチャーズが主導した資金調達ラウンドで2億ドルを調達した。

一方、インバーテッドAI(Inverted AI、カナダ)は運転シナリオの人間の要素に注目している。同社のシステムは人間の行動予測モデルを使って「ノンプレイアブル・キャラクター(NPC)」を生成し、NPCがシミュレーションで人間と同じように振る舞う。これにより、頑健な自動運転システムの訓練に不可欠な複雑で現実に即したシナリオを作成できる。

生成AIを活用したこうしたシミュレーションにより費用対効果が一段と高く、包括的な訓練を迅速に実施できるようになり、レベル5の開発が加速する。完全自動とほぼ完全自動には大きな差があるが、この閾値(いきち)を超えれば運輸業界のプレーヤーに大きなインパクトをもたらすだろう。

要点

・米国ではウェイモ、中国ではネット検索大手の百度(バイドゥ)の「アポロ・ゴー」が率いる急成長しているロボタクシー業界が、完全自動運転の体験を消費者にいち早く提供し、自動運転車の普及を加速させるだろう。

・自動車メーカーは消費者の完全(またはほぼ完全)自動運転機能の需要の高まりに備えるべきだ。こうしたシステムの価格は当初は高く、まずは高級車に搭載されるだろう。共同開発やライセンス契約により自動運転システムのパートナーを選ぶ際は、生成AIを活用したシミュレーション機能も評価に含めるべきだ。

・この商機をつかもうとする自動車保険会社は、完全自動運転車のリスクを評価する新たなモデルを開発し、これに応じて保険商品を見直す必要がある。サイバー攻撃リスクに関する規定を盛り込んだり、リスクを軽減するため車のサイバーセキュリティー企業と提携したりすることも検討すべきだ。

・生成AIを活用した仮想訓練システムの進歩をきっかけに、医療や航空宇宙など安全性の確保が最も重要な他の産業の完全自動化も進むだろう。

自動運転車の安全性と透明性の向上

ウェイモなど自動運転システム大手は自社の自動運転車の安全性は大きく向上したとしているが、これはなお自動運転車の導入に関する規制当局や消費者の最大の懸案になっている。

前述した生成AIシミュレーションはエッジケースの解決やテストを支え、安全性の向上に寄与する。

一方、LLMも他の安全性の懸念の解決策として台頭している。

運転判断の説明

LLMは自然言語を使って運転判断の理由を説明し、自動運転システムの透明性向上と説明可能なAI(アルゴリズムの意思決定プロセスの可視化)に道を開いている。

AIユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の英ウェイブ(Wayve)は23年9月と24年4月に「オープンループの運転コメンテーター」システム「LINGO-1」と「LINGO-2」をそれぞれ投入し、この開発の最前線に立つ。これらのシステムはLLMを使って運転判断の理由を自然言語でリアルタイムに説明し、利用者の信頼を高める。

この手法の実社会での精度はまだ不明だが、規制面での自動運転車の導入の壁になっているアルゴリズムの意思決定の「ブラックボックス」問題に対処する。

システムが予測した理由を理解できない点が、規制当局や保険会社によるチェックを不可能とは言わないが、困難にしている。これは事故の責任を判断する際の重要なステップになる。

軌道予測の向上

ウェイモは周囲の車や歩行者などの動きを予測するプロセス「軌道予測」を向上するため、言語モデルの活用について研究している。軌道予測は安全なルートの選定やアクセル、ブレーキ、ステアリングの判断に使われる。

同社は23年9月に発表した論文「MotionLM: Multi-Agent Motion Forecasting as Language Modeling」で、言語モデルを活用して車や歩行者など周囲の複数のエージェントの動きを同時に予測する方法を示した。

この方法は自動運転車の動きを予測する研究用に構築されたデータセット「ウェイモ・オープンモーション・データセット」のテストで、既存の予測方法よりも優れた結果を出した。

LLMの活用は複雑な交通状況をより正確に予測できるようになり、自動運転車の安全性を高める可能性があるが、課題もある。

LLMがもっともらしい誤答を生成する「ハルシネーション(幻覚)」のリスクはなお重大な懸念だ。さらに、LLMをリアルタイムの運転シナリオで使うには、推論時間(LLMが入力を処理して対応を生成するまでの時間)を極めて短くする必要があり、現在のハード機器では困難だ。

LLMが自動運転車の安全性を向上できるようにするには、利用可能な電力やスペースなど車特有の制約を考慮したもっと強力な車載AI半導体が必要になる。

要点

・自動車メーカーは推論時間を短くしてエネルギー効率を高める能力、他の車載システムとの相互運用性、(車が様々な天候や道路状況にさらされる点を踏まえた)耐久性に基づいて車載AI半導体メーカーを評価し、提携すべきだ。半導体の生産のスケーラビリティー(拡張性)や単位当たりのコストなどサプライチェーン(供給網)の要因も考慮すべきだ。

・台湾の聯発科技(メディアテック)や米インテルなどの車載AI半導体メーカーは既にLLMをローカルで運用できる計算力を提供し、インターネットに常につながなくても済むようにしようと取り組んでいる。需要が高まれば車載半導体に特化した革新的企業や、用途特化型の半導体(例えば、車載AIシステムの別の部分に高度に特化した半導体)を手掛ける企業の主導により、この分野の競争はさらに激しくなるだろう。

・自動運転車は市場のTAM(総需要)が大きく、規制当局から厳しく精査されるため、「説明できるAI」の開発の起爆剤になるだろう。説明できるAIのブレークスルーは規制当局(とユーザー)の信頼向上に大きな影響をもたらす。

・自動車保険会社は完全自動運転車のリスクモデルを改善するため、運転判断の説明と軌道予測でのLLMの進歩を注視すべきだ。

乗員と車両のやり取りやパーソナライズ化の推進

車載音声アシスタントは新たな機能ではない。だが、LLMの活用でニュアンスや文脈に富んだ指示を理解して対応できるようになり、能力が大きく高まる。

これにより、自動車メーカーが乗客のコメントに基づいてリアルタイムで運転速度やスタイル、ルートを変えるなど高度にパーソナライズされた車内体験の提供を競う新たな戦場が生まれつつある。

テック企業と提携し、既に競争力を築きつつある企業もある。

例えば、独メルセデスベンツは23年6月、自社の音声アシスタントを改善するため米オープンAIの対話型AI「Chat(チャット)GPT」を試験導入し、米国の90万台の車両にベータ版のアクセスを提供した。24年8月には中国のネット大手、字節跳動(バイトダンス)傘下の企業向け技術サービスプラットフォーム「火山引擎(Volcano Engine)」との提携を拡大し、火山引擎のLLMをスマートキャビンに搭載した。

さらに、独フォルクスワーゲン(VW)はオープンAI、独BMWは米アマゾン・ドット・コムと組み、車載音声アシスタントにLLMを搭載している。自然言語による指示でワイパーや駐車支援システムを起動させるなど、当面は一定の車載機能の制御や使い方の学習に使われる。

こうした進歩は乗員と自動運転車とのコミュニケーションギャップを埋め、安全性と快適性を高めるだろう。LLMは現行の音声アシスタントよりも正確に緊急のリクエストを解釈し、例えば「角で止まれ」と「すぐに止まれ」という指示を区別する。

こうしたシステムはいずれ、ユーザープロフィルを築き、個人の好みや習慣に基づいて対応するようになるだろう。乗員が「吐き気がする」や「食べ物を買いに行こう」などのニーズや不快感を示すと、車はそれに応じて運転スタイルやルートを調整するようになる。

この可能性の実現のカギを握るのも車載AI半導体の進歩だ。より高性能な車載AI半導体は車をスマートフォンのようなデジタルプラットフォームにし、人間が指示しなくても様々なタスクをこなす車載AIエージェントに道を開く。

ユーザーの代わりにいくつかの判断を下す権限を与えられたAIエージェントにとって、車は特に強力なプラットフォームになる。例えば、自動運転車のAIエージェントはユーザーが「助け」を求めると緊急事態だと判断し、医療従事者に通知して車載センサーやカメラ、コネクテッドウエアラブル端末から症状を説明し、バイタルデータを提供できるようになる。その間に、ユーザーを保険が使える最寄りの病院に連れて行く。

要点

・自動車メーカーと自動運転システム開発企業はサービスに付加価値をもたらす手段として、電子商取引(EC)や旅行予約など消費者向けアプリケーションを手掛けるAIエージェント開発企業との提携を探るべきだ。

・サービス向上と他社との差異化を図るため、デバイスメーカーと提携して車両とアクセスデータの相互運用性を拡充することも検討すべきだ。

・デバイスメーカーや米アップルなどのパーソナルAI開発企業にとって、車載音声アシスタントへのLLMの搭載は自社製品を流通し、データをさらに収集するチャンスになる。

次の動き

自動運転車への生成AIの活用により既存の自動運転システムの一部改善だけでなく、仕組みそのものの刷新も可能になっている。

生成AIは訓練データを一般化し、新たな未知の状況にうまく対応する能力があるため、自動運転システムを従来のルールベースのモジュール式の手法から、AIを活用した柔軟な手法にシフトさせる。

この新たなパラダイムでは、AIはコードに書き込まれて変更できないルールや中間システムを使ってデータを解釈するのではなく、センサーの入力を直接処理して運転判断を下す。

業界トップは既にこのシフトを進めている。

テスラが最近、完全自動運転システムのモジュール式からE2Eへの移行を進め、中国の小鵬汽車(シャオペン)などライバルも追随しているのは、E2Eのポテンシャルの高さを示している。

もっとも、この手法の成否は前述した課題を克服できるかどうかにかかっている。

計算力:E2EのAIシステムにはかなりの車内処理能力が必要となる

コスト:高性能機器と高度なAIモデルの搭載により当初は車両価格が上昇し、普及が進まない可能性がある

速度:瞬時の判断が不可欠なため、超高速の推論時間と信頼性が必要になる

安全性:あらゆる運転状況で常に安定した性能を確保することが不可欠となる

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