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リーガルAI市場、再編の機運高まる 差異化がカギ

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CBINSIGHTS
AI(人工知能)を活用して法務を効率化するリーガルAIの市場で再編の機運が高まっている。足元ではスタートアップを中心に資金調達額が増え、注目も集まる。どのツールも似通っているなどの懸念があり、各社は調達資金をもとに差異化を図る必要に迫られている。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

知っておくべきこと:

・法務関連のタスクを自律的にこなす「AIエージェント」を手掛けるスタートアップの資金調達額は、2022年以降飛躍的に増えている。米ハービー(Harvey)や英ルミナンス(Luminance)などこの市場のリーダーがけん引している。

・各社が追加機能、他のサービスとの連携戦略、主力製品を通じてどう差異化を図るかが今後の注目点になる。

・AIに関する深い専門知識を持つリーガルテックAI企業は、法律分野の知識はあるがAIには詳しくないリーガルテック企業にとって格好の買収対象になる。

リーガルAIエージェント&コパイロット(生成AIを活用して人間の業務を支援する機能)はこの1年、投資家から注目されている。

AIエージェントやコパイロットを活用したツールは、リーガルリサーチや文書の要約、契約書チェックなどで弁護士の業務を効率化している。

この分野の24年に入ってからの資金調達額は既に過去最高に達している。けん引役は7月のシリーズBで1億ドルを調達し、企業価値が15億ドルになったハービーだ。グーグル・ベンチャーズやオープンAIスタートアップ・ファンドが投資家に名を連ねている。

もっとも、こうしたツールを導入している顧客へのインタビューでは、実態はさほど明るくないことが明らかになった。顧客はどのツールも似通っている点と、切り替え費用が低い点を懸念に挙げた。これは市場再編の可能性が高いことを示している。

リーガルAIエージェントやコパイロットは顧客を獲得するため、機能以外でも差異化を図り、既存のリーガルテックとさらに深く連携する必要がある。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、この市場の以下の課題とチャンスについて検証する。

・リーガルAIエージェントの現時点での弱点

・スタートアップが差異化によって成功できる分野

・M&A(合併・買収)対象が豊富な環境

次の買収になりそうなツールも紹介する。

リーガルAIエージェントの現時点での弱点

商品が画一的

各社が手掛ける業務は主に以下の3つで、特徴と機能は似通っている。

・問い合わせとナレッジマネジメント

・文書作成

・文書や契約書のチェック

CBインサイツが追跡しているこの分野のスタートアップ16社のうち、3つの機能を全て手掛ける企業は40%弱で、ほぼ全ての企業が少なくとも2つを提供している。

だが、案件管理や文書管理などリーガルテックの他の分野の企業は、既にこうした機能の大半を提供しており、AIエージェントのコンセプトだけでは十分な価値を提案できない可能性がある。

さらに、各ツールの機能が重複し、特に明確な価値を示せていない点は、一部の顧客にとってネックになっている。例えば、米国の電子証拠開示制度「eディスカバリー」用にルミナンスのツールを活用するある顧客は、AIのアウトプットの精度と独自性に懸念を示した。

切り替え費用の低さ

多くのツールは差異化要因がない上に、既存のリーガルテックプラットフォームと連携していない。大半は単独型で、顧客の維持が難しくなる可能性がある。

別のツールに切り替えるのはどれほど難しいかとの質問に対し、米ケーステキスト(Casetext)とルミナンスの顧客はともに「簡単だ」と答えた。

米イブ(Eve)の顧客も価値を高める重要な手段は既存ツールとの連携強化だと指摘した。

新興勢は差異化によって成功可能

既存のリーガルテックとの連携を深め、法務分野の専門知識も示すことができれば、新興勢には顧客の不満を埋めるチャンスがある。

ハービーなど一部のリーガルAIエージェントやコパイロットの開発会社は、大規模言語モデル(LLM)を法務業務向けに微調整し、生産性のモニタリングや利用規定の策定を手掛けるガバナンス(統治)ツールを提供している。

一方、米クリアブリーフ(Clearbrief)は自然な言葉での指示に応じた法律文書の作成と分析に力を入れている。同社のツールを使っている顧客は、このツールは同社の他の法的文書作成プロセスとの連携がとれていると評価した。

クリアブリーフは最近、CBインサイツが事業の勢い、創業チーム、エグジット(投資回収)の可能性に基づいて選んだ「有望なテック企業52社」に入った。

M&A対象が豊富な環境

既存勢がAIエージェントを独自開発して攻勢をかける可能性から、リーガルAI市場では再編機運が高まっている。

こうした展開は既に、米情報サービス大手トムソン・ロイターによるケーステキストの買収で現実になっている。

ケーステキストの社員は全員トムソン・ロイターに移り、トムソンの法律関連コンテンツを活用してAIアシスタントをさらに発展させている。

23年6月のこの買収では、ケーステキストの企業価値は5倍以上になった。

CBインサイツの推計によると、この市場では特に米AIロイヤー(AI Lawyer)、ドイツのゼイン(Xayn)、米カリダスAI(CallidusAI)のスタートアップ3社が買収対象になる可能性が高い。3社はまだ外部から資金を調達しておらず、財務健全性のスコアが低く、商業的成熟度も低い。一方で、AIの専門知識は証明済みのため、他の企業が買収に動く可能性がある。例えば、カリダスAIとゼインの創業チームとトップは、データサイエンスやAIソフトウエア・エンジニアリングの分野での経験がある。

買い手と目されるのはリーガルテック大手の米レクシスネクシスだ。同社には既に連携されたツールのエコシステム(生態系)という新興勢にはない大きな強みがある。同社はAIエージェントをこのエコシステムに組み込み、顧客がその環境にとどまる理由を増やそうとするだろう。レクシスネクシスは独自の文書チェック・作成機能を持っており、LLM及び生成AIの専門知識、ガバナンス、業務フローを持つ新興企業はレクシスネクシスの商品を補完できる可能性がある。

案件管理や書類管理を手掛ける企業とのM&Aや提携を通じ、この市場に新規参入しようとする企業も現れるだろう。

例えば、コンテンツと情報を管理するカナダのオープンテキストは直近の決算説明会で、AIイノベーションに力を入れていることを明らかにした。主力の文書管理ツールを補うため、法務分野と契約書について深い専門知識を持つスタートアップに着目する可能性がある。

一方、法務業務の管理ソフトを手掛けるカナダのクリオ(Clio)のようなスタートアップは、業務や文書の管理機能を強化するためにリーガルAIエージェントとの提携や買収に乗り出すかもしれない。同社は24年7月のシリーズFで9億ドルを調達しており、資金面でも好位置につけている。

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