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JPX山道裕己CEO「日本でもPBR1倍超えを当たり前に」

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 東京証券取引所が上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請してから約1年半。6月末までにプライム企業の7割、スタンダード企業の3割が対応策を開示した。日本取引所グループ(JPX)の山道裕己グループ最高経営責任者(CEO)は成果を評価しつつも、なお「株主から見て内容が不十分な企業は相当数ある」と指摘。「日本でもPBR(株価純資産倍率)1倍超えを当たり前にしたい」と語った。

――東証による異例の要請からもうすぐ1年半になります。

「プライム企業の7割が反応したのは良かった。ただ我々が目指すのは開示率を高めることではない。中長期的に企業価値の向上にどう資するかということだ」

「企業は大きく3つに分けられる。第1群は資本コストや株価を意識した経営を既にしていて、具体策を何回も議論しているような企業だ」

「第2群は対応策を開示しているものの、株主から見て内容が不十分なほか、視点がずれている企業だ。これは相当数あると思う。経営者が要請に応える意味はないと思っていたり、リソース不足で対応できなかったりという企業が第3群だ」

「東証に企業のIR(投資家向け広報)活動を助ける部署を設けた。地方では資本コストや株価対策の必要性への認識が高まりにくいところがある。証券会社と組んで説明会を開き、時には東証の岩永守幸社長が出張して説明している」

一過性の対応は求めていない

――PBRという言葉が投資家だけでなく、一般層にも広がりました。

「『PBR1倍割れは解散価値を下回っている』というのは厳密には正しくないが、株主資本より時価総額が小さいというのは(株式市場が企業に突きつけている問題点を明確にする上で)非常に分かりやすいコンセプトだ。PBRは企業と投資家の間で対話を深める材料になりつつある」

「PBRはROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)のかけ算だ。PBRが低い理由は企業によって異なり、例えばROEが高いのにPERが低い企業はマーケットに対するアプローチに問題がありIRを改善すれば良くなる可能性がある。低い理由を一番分かっているのは経営者であり投資家だ。分析を深めて対応策を考えてほしい」

――2023年には自社株買いが金額ベースで過去最高を更新するなど、企業が株主還元を強化する動きが目立ちます。

「東証の要請は一過性の自社株買いや増配を求めているわけではない。我々は中長期的な企業価値向上に資するような生産設備への投資や、人的資本に関する投資、あるいは事業再編などをやっていただきたいと申し上げている」

「そういったことを実行した上で、まだ余剰資本があれば、株主に還元することは当然否定するような話ではない」

「金融などを除くプライム市場の企業の自己資本比率は42%と欧米勢に比べて高い。日本企業はリーマン・ショックや新型コロナウイルス禍で突然需要が消える経験をした結果、自己資本を厚くしてきたのも事実であり、それがROEも押し下げている」

経営者と投資家の目線を合わせたい

――東証による要請後、経営者の意識が大きく変わったのでしょうか。

「『資本コストや株価を意識した経営』というのは決して新しい話ではない。15年のコーポレートガバナンス(企業統治)・コード制定から入っている。23年3月の要請時にプライム企業の90%以上が『資本コストや株価を意識した経営』を順守していると調査に答えている」

「その割にPBRが欧米と比べて低い。今回の要請は資本コストや株価を意識していると言う割にはPBRが低いのではないかという問題提起でもある」

「経営者と投資家の資本コストに対する目線のずれがある。経営者は売上高の伸び率など損益計算書を見ていることが多い。逆に投資家はROEなどの資本効率やバランスシートを見ている。この目線を合わせたいというのも要請の目的の一つだ」

「この目線については、ここ1年で企業側にかなり変化が出てきたと国内外の投資家から聞いている。これまでIR活動に経営陣が全く出てこなかった会社で、トップが自ら(説明会などに)出席するようになったり、経営トップとのミーティングもしやすくなったりしているという話を聞いている」

「経営トップと関わる機会がまだ少ないといったネガティブな意見もあるが、要請前よりは前進している」

上場企業の量より質を追求

――東証の要請にゴールはあるのでしょうか。

「PBRは1倍超えで終わりではない。そのまま2倍、3倍と上を目指すことだと思う。米国の水準は4倍、欧州は2倍くらいだ。日本でも1倍超えを当たり前にしたい」

――地方の中堅企業でもPBRが低いところはアクティビスト(物言う株主)に狙われるようになっています。こうした状況を受けて、企業側にはIR部門の強化などの負担が大きくなっているという不満もあるようです。

「東証の要請を含め、上場を維持するコスト増が企業の重荷となっているのは確かだろう」

「直近の3年間でM&A(合併・買収)やMBO(経営陣が参加する買収)で上場廃止した企業数は216社とその前の3年間から4割増えた。株主総会などでの圧力も強まっており、企業への要求は厳しくなっている。こうした負担が上場しているメリットを上回るなら上場廃止も一つの選択肢だろう」

「東証の上場企業数は約3900社と世界的に見ても多い。我々は成長力のある企業に対し、国内外から投資資金が集まるようなマーケットになるべきだと思っており、上場企業の量より質を追い求めている」

(日経ビジネス 阿曽村雄太)

[日経ビジネス電子版 2024年7月31日の記事を再構成]

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