ウーバーの自動運転戦略 出資・提携で料理宅配も拡大へ
ウーバーは全ての事業で自動運転の未来に備えている。
2020年には自動運転部門ATGを売却したものの、今や業績が黒字に転換し、四半期ベースの運行回数が28億回に上り、世界各地で事業を展開している点を生かし、ライドシェア、宅配、貨物輸送の全ての事業で長期的なコスト削減を可能にする自動運転車の提携を進めている。
運送や物流業界の幹部にとって、ウーバーの最近の活動はモビリティー分野の変化を示している。技術と規制の不確実性をヘッジしつつ市場シェアをいち早く確保するため、様々な自動運転車企業と提携しておく重要性を浮き彫りにしている。
このリポートでは、CBインサイツのデータを活用してウーバーの自動運転分野の提携や投資を分析し、戦略で重視している点を解明する。
ポイントは以下の3つだ。
1.ウーバーの配車プラットフォームは自動運転車メーカーにとって格好の実験場:ウーバーの1日の運行回数は3000万回に上り、提携する自動運転車メーカーに広範な実証実験の機会を提供している。ウーバーも運転手のコストを削減できる。
2.配達環境によって必要な車両も異なる:ウーバーは密集した都市と郊外の両方の配達ニーズに対処するため、多様な自動運転車両との提携を探っている。
3.自動運転トラックの展開はまだ先の見通し:高速道路は自動運転車にとって理想的な環境だが、州によって規制が異なるためウーバーフレイトの自動運転トラックの提携は長期に及ぶ傾向がある。
ウーバーは従来型の車と自動運転車の併用が需要に柔軟に応え、利益を上げる最適な方法だとしているが、どんなタイプの自動運転車を導入するかについてはまだ試行中だ。このため、同社のビジネス関係は遠隔操作車から完全自動運転車に広範に及んでいる。
以下では3つのポイントについて掘り下げる。
1.ライドシェアモデル、ウーバーと自動運転車メーカーの相互にメリット
ウーバーは24年4〜6月期の決算説明会で、自社プラットフォームは自動運転車メーカーにとってどう有益で、逆もしかりかを説明した。ウーバーは自動運転車の導入により運転手のコストを削減できるほか、車両数を増やして待ち時間や運賃が急騰する状況を減らし、顧客満足度を高められる。
一方、自動運転車の開発企業にとっては、性能や安全性のデータを収集するために顧客を獲得しやすくなる上に車両を常に活用・管理でき、大規模な商用化が可能になる。ウーバーは走行ルートの最適化や運行の詳細など、自動運転車にさらに情報を提供できる独自データも入手できる。
ウーバーは米国の各都市とアラブ首長国連邦(UAE)に自動運転車を展開するため、24年だけで自動運転車メーカー4社と提携を開始・更新し、1社に直接出資している。
特に成功しているのは、米アルファベット傘下で自動運転技術を開発する米ウェイモとの提携だ。ウェイモは23年、米アリゾナ州フェニックスでウーバーのアプリを介した自動運転車の配車サービスを開始した。25年初めにはテキサス州オースティンとジョージア州アトランタに拡大する予定だ。
ウーバーの多様な提携は、様々な自動運転技術にヘッジする戦略を反映している。例えば、米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の自動運転企業、米クルーズとの提携ではGMの自動車に関する専門知識を活用し、中国の文遠知行(ウィーライド)との提携を通じて中国の自動運転車市場に知見を提供する可能性がある。自動運転の乗用車と自動宅配ロボットの両方を手掛ける米AVライド(Avride)との提携は、ウーバーの多面的なビジネスモデルに合致している。
自動運転の乗用車での唯一の出資先は英ウェイブ(Wayve)だ。ウェイブのナビゲーション方法は他社と一線を画している。大半の自動運転車は高精度地図に頼っているが、ウェイブは人工知能(AI)とカメラを使って周辺環境を素早く学び、他の車なら地図がなく走行できない地域でも走れる。
自動運転車のライドシェアを利用する消費者は急増している。ウェイモの有償サービスの利用回数は8月には週10万回を超え、5月の2倍に増えた。運賃はやや割高だが、チップが不要なので総額は有人ライドシェアとほぼ同じだ。
2.多様な自動宅配車両を組み合わせるアプローチで、都市から郊外まで様々な市場に対応
ウーバーの自動運転車の活動は料理宅配事業「ウーバーイーツ」にも及んでいる。
21年には米料理宅配ポストメイツからスピンアウトした米サーブ・ロボティクスと提携し、自動宅配に参入した。当初は米カリフォルニア州ロサンゼルスだけで手掛けていたが、23年には宅配ロボを数千台に増やし、他の大都市にも拡大する方針を明らかにした。ウーバーは同年、米エヌビディアなどとともにサーブ・ロボティクスに出資した。
ウーバーはサーブ・ロボティクスへの出資拡大に加え、年内に自動配送車を数千台展開するため米ココ(Coco)、米ニューロ(Nuro)、三菱電機と提携している。
こうした関係により、様々な地域で多様な配送方法を試せている。
例えば、ココの宅配ロボはサーブ・ロボティクスの歩道走行型宅配ロボとほぼ同じ大きさだが、人間の操縦者が遠隔で監督しており、必要に応じて障害物や往来を避けられる。こうした歩道走行型ロボは走行距離が短く、小型の商品の配送が必要な人口の多い都市環境に適している。一方、ニューロの自動配送車は郊外向きだ。最新モデルは最高時速が45マイル(約72キロメートル)で、対象とするファミリー層に大型の注文や食料品を配達できる。
こうした提携が出資や買収に進化するのと並行し、様々な購買行動や配達地域に対応するために混合型アプローチは引き続き必要になるだろう。
3.ウーバーフレイトの活動に基づけば、自動運転トラックの実用化はまだ先
乗用車でも配送車両でも、地元の規制は自動運転車の障壁になってきた。だが自動運転トラックは州をまたいで移動し、労働組合も強力なため特有の課題がある。
にもかかわらず、ウーバーは最も新しい事業である配送マッチングサービス「ウーバーフレイト」で布石を打っておこうと、自動運転トラックの開発に取り組む多くの企業と提携している。
直近では23年、米トーク・ロボティクス(TORC Robotics)及びワービ(Waabi、カナダ)と提携した。
トークとの提携では輸送業者10万社以上のデータと知見を共有し、トークの自動運転トラック網の訓練を支援している。両社は27年までに自動運転トラックの大規模な商用化を果たそうとしている。
10年に及ぶワービとの提携では、米テキサス州のダラス―ヒューストン間の試験走行を開始した。配送業者がウーバーフレイトを活用して荷物の配送を予約できるオプションが付いた「ドライバー・アズ・ア・サービス」に拡大する計画だ。
自動運転トラックの提携期間はライドシェアや宅配の実証実験よりも長期に及んでいる。これは自動運転トラックには漸進的な戦略が必要なことを示している。州をまたぐ物流では、各州の規制が大きく異なり、複雑に絡み合っていることが背景にある。
例えば、テキサス州は自動運転トラックの試験走行を歓迎しているが、カリフォルニア州などは要件が厳しく、労組も反発している。だが、いったん弾みが付けば、こうした布石はウーバーフレイトだけでなく、メーカーから小売りまでサプライチェーン(供給網)のあらゆる企業に大きな影響をもたらす可能性がある。
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