NECが米国で新興9社設立 客員起業家と課題を突破
新事業を創出するNEC米子会社のNEC Xが、ニューヨーク州に捜索支援サービスのフライハウンドを設立した。行方不明者が持つ携帯の電波をドローンがとらえ、コントローラー画面に対象者の電波から得た位置情報を示す。
フライハウンドのマニー・サーニリヤ最高経営責任者(CEO)は「警察や消防など公的機関をサポートできる」と語る。赤外線カメラを搭載した従来の捜索用ドローンでは、建物や樹木でカメラの視界が遮られる懸念があった。新サービスは電波を識別するため、早く発見できる可能性が高まる。NECはグループに人工知能(AI)や通信など幅広い知見を持ち、今回は欧州研究所の技術を活用した。
今回の新会社設立は、2018年7月に事業を始めたNEC Xの成果の一つ。当時、画像認識やデータ分析などの技術をビジネスに結びつけるスピードが遅いことが課題になっていた。社内のアイデアを市場に出せるようになるまで数年かかり、その間に同じような技術・サービスが世の中に出てきてしまう懸念があった。
事業化が不得意であるという自覚に立ってNEC Xを設け、過去4年半でフライハウンドを含め9社を興した。ネット通販の口コミ分析や、ブドウの剪定(せんてい)自動化の企業がある。数年かかるような事業化を6カ月などの短期間で実現している。上場や売却に伴う収入を得ていく考えで、1件は23年中にグループへ取り込む計画だ。スタートアップ設立のペースについて、NECコーポレート・エグゼクティブの中島輝行氏は「当初の目標を前倒しでクリアしている」と話す。
スピードを上げる手法の一つは、外部人材との積極的な協業。NECが保有技術を公開して起業家らから事業のアイデアを募る。これまで5000人を超す起業家に接触した。NEC Xの井原成人CEOは「いくら技術がよくても、それだけではビジネスはつくれない。NECにノウハウがない場合は、そのギャップを埋めるために外部から専門家や経験者を招いて事業化する」と話す。
検討中のプロジェクトは40近く
そのうちの一人がマニー氏で、米AT&Tや台湾通信機器の宏達国際電子(HTC)などを経て、起業家に転身。21年から、企業の社員などの立場で起業を目指す「客員起業家」としてNECに参画している。マニー氏はNECについて「公共分野の技術の知見が大きい」と期待する。
これまで200件以上のアイデアが持ち込まれ、現在40近いプロジェクトが走っている。井原氏は、NECが保有する技術の中でも特に「画像解析や最適化・予測技術、セキュリティー関係の技術が(起業家の)興味を引いている」と語る。
NECは技術と市場を近づけるため、22年に研究開発と新事業開発の両部門を統合しており、25年までの3年でさらに10件以上の事業化を狙う。シリコンバレーでの取り組みは軌道に乗ってきた。
NECは26年3月期の中期経営計画で、売上高の目標を22年3月期の16%増に当たる3兆5000億円、営業利益を2.3倍の3000億円としている。世界での高速通信規格「5G」ビジネス拡大などで成長を目指す。将来の市場性が見込まれるのは量子分野だ。従来の重点方針だった米国での事業開発は軌道に乗り始めているが、グループではまだ足りないようにも見える。シリコンバレーでの経験をNEC全体に生かすことが課題となる。
(日経ビジネス 中西舞子)
[日経ビジネス電子版 2023年1月31日の記事を再構成]
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