金の需要 宝飾品が約半分、中央銀行の保有も増加
キソから!投資アカデミー 商品⑫
金の需要の約半分は宝飾品です。金融市場の整備が不十分な発展途上国では、金の宝飾品が「貯金」の役割も兼ねています。例えば2022年に宝飾品として金を最も消費したインドでは、花嫁が金の宝飾品を持参金にする風習があります。婚礼シーズン(10〜11月ごろ)は特に需要が盛り上がります。
金は加工しやすく導電性も高いため、電子部品など産業素材としての需要もあります。ただ需要全体に占める割合は1割前後に過ぎません。景気の影響を受けやすい産業需要への依存度が低いため、景気後退局面でも金の価格は下がりにくい傾向にあります。不況に対する抵抗力が強い資産ともいえます。
10年代以降は中央銀行の金買いが増えています。国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、22年の中銀による純購入量(購入から売却を除いた値)は1135トンと、データのある1950年以来で最高水準となりました。新興国がドルへの過度な依存を避けるため、保有資産を分散させているとみられます。中銀は金を超長期で保有するのが一般的で、価格の下支え要因となります。
金の供給は「鉱山からの一次供給」と「リサイクルによる二次供給」に大別されます。

金は世界各地に産地が分散しているため、特定地域の鉱山ストなどによる供給への影響は限定的です。日本も以前は国内に多くの金鉱山がありました。ただ現在、商業ベースで生産を続けているのは住友金属鉱山が保有する菱刈鉱山(鹿児島県伊佐市)だけです。
金は腐食しないため、有史以来発掘された金の大部分は宝飾品や地金などの形で現存します。こうした発掘済みの金は「地上在庫」とも呼ばれます。2021年の東京五輪では、選手に贈るメダルをリサイクル素材だけで作り、話題になりました。
もっとも地上在庫は金の価格上昇を抑える存在となります。利益を得るために手持ちの地上在庫を売る投資家が増えると、その金はリサイクル後、再び流通に回ります。市場全体の供給が増え、価格の下落要因になります。
金の国際取引ではロンドンと米国が有名です。地金を扱う現物取引では、ロンドンでの受け渡しを条件とする「ロコ・ロンドン取引」が多く利用されます。売り手と買い手が一対一で行う相対取引です。午前と午後の2回実施する「フィキシング」と呼ばれる取引で決まる価格は国際価格の指標で、多くの投資家が注目します。
地金の受け渡し場所がインドやシンガポールなどの場合、ロンドンからの地金の輸送コストが反映されるため、取引価格はロコ・ロンドン価格より割高になるのが普通です。ただ需要が冷え込み、過去に購入した地金を売る投資家が増えると、割安に取引されることもあります。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)の先物価格も国際指標として注目を集めます。ロコ・ロンドンと先物の価格差が開いた場合、高い方を売って安い方を買う「裁定取引」で利益を得ることができます。この取引は価格差が縮まるまで繰り返されるため、現物と先物の価格は連動します。
日本では円建て価格によるグラム単位の取引が一般的です。現物は地金商などが日々小売価格を公表しており、先物は日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所で取引されています。