東京海上、成長へ建設コンサル買収 政策株売却を元手に
東京海上ホールディングス(HD)が建設コンサルティングのID&Eホールディングスを買収すると19日に発表した。政策保有株式の売却で手元資金の余裕が増すなか、買収先として選んだのは河川や上下水道など社会資本整備の設計で定評がある国内の老舗企業だ。事後の補償だけでなく、事前の予防にも手を広げ、企業を災害から守るトータル企業をめざす。
東京海上HDは2008年3月の英キルンを皮切りに、米デルファイ(12年5月)、米HCC(15年10月)など海外の保険会社を相次ぎ傘下に収めてきた。買収額は累計で2兆円規模におよぶ。海外事業の利益は25年3月期で3330億円を見込んでいる。この10年で2.5倍に膨らんだ計算で、3メガ損保で最もグローバル化が進んでいるといえる。
買収に使う軍資金はなお潤沢にある。東京海上HDは傘下の東京海上日動火災保険が保有する政策株を30年3月末までに解消する方針だ。今年9月末時点における保有額は時価ベースで2兆5707億円に及ぶ。
売却で手にする資金を使った買収先は、今回も海外の保険会社だとみられていた。ところが東京海上HDが繰り出した一手は、1946年設立の日本工営を傘下に持つID&Eだった。
日本工営は社会資本の設計や都市開発のコンサルティングを手掛ける。中央省庁や地方自治体を顧客に持ち、土木と建築にまたがる技術を生かした街づくりにも力を入れる。東京海上HDは23年8月に資本提携などに関する基本合意書をID&Eと交わし、今年3月にはID&Eの完全子会社化に向けた協議を始めた。
東京海上HDは5月に公表した中期経営計画で、脱炭素やモビリティーと並び、防災・減災の領域を新たな事業の柱に育てる方針を明らかにした。
経済的な被害を金銭で補償する従来の保険ビジネスに加え、災害に遭っても企業活動を維持できるよう後押ししたり、そもそも災害による被害を極力小さくしたりする取り組みを担う機能も持つ。
19日の記者会見で東京海上HDの岡田健司専務は「防災・減災のレジリエンス(復元力)で保険と建設コンサル、それから都市空間といった事業を一貫して提供したい」と話した。
政策株の売却が急ピッチで進み、東京海上HDでは財務の健全性を示す「ESR」が今年9月末時点で147%と半年間で7ポイント増えた。ESRは高ければ良いわけではなく、むしろ高すぎれば余剰の資本を自社株買いや配当として還元するよう株主に求められる。手元資金を有効活用し、どう有意義な成長投資につなげられるかが重要だ。
6月にはSOMPOホールディングスがRIZAPグループに約300億円を出資し、双方の顧客基盤やデータを連携させて病気の予防につながるサービスの開発に乗り出した。健康や介護、老後資金といった課題に取り組む事業部門「ウェルビーイング」を今年度に新設し、事業規模の拡大をめざしている。
同じように国内市場の深掘りが難しくなってきた生命保険会社は、異業種に進出する企業が増えている。
第一生命HDが企業に福利厚生サービスを提供するベネフィット・ワンを今年5月に買収し、日本生命保険は6月にニチイ学館を傘下に持つニチイHDを傘下に収めた。新たな収益の柱に育てながら、本業である保険との相乗効果を高める狙いがある。
損保各社は政策株を通じて企業との関係を強め、保険契約の獲得につなげてきた。しかし現在は企業向けの保険料を事前調整していた問題を受け、健全な競争を阻害していると指摘された政策株を各社は30〜31年3月末までに解消すると目標に掲げる。
政策株売却は長年にわたる商慣習との決別にとどまらず、新たに得た資金でどのようなビジネスモデルを築こうとしているのかも問う。