イタチ捕獲、大阪が断トツ 大量の巣と餌が原因?
とことん調査隊

大阪市内の夜の街角で小動物が走るのを目にした。「ネズミ? やけにでかいな」と驚くと、大阪育ちの知人が「あれはイタチだよ」と言う。冗談だろうと思ったが、調べてみると、大阪府内では糞害などによるイタチの苦情がカラスより多いという。なぜ都会にこれほどイタチが生息しているのだろうか。
大阪府によると、府内の市街地で見かけるイタチの大半は大陸由来のシベリアイタチという外来種だ。別名のチョウセンイタチに聞き覚えのある人もいるかもしれない。
日本固有種のニホンイタチは主に山間部に生息。外来種が固有種を駆逐する話はよく聞くが、そうではなく、すみ分けができているらしい。
イタチ保全の研究を行っている筑紫女学園大学(福岡県太宰府市)の佐々木浩教授によると、シベリアイタチは人家や田畑の近くに生息するが、ニホンイタチは河川周辺など自然豊かな場所を好む。都市部では開発によってニホンイタチの生息域が狭まる一方、シベリアイタチはそこで勢力を広げたとみられる。
シベリアイタチの〝入国経路〟は2つあるというのが通説だ。1つは「福岡ルート」で、昭和初期に貨物船にまぎれ込んで北九州から侵入。
もう1つは「兵庫ルート」だ。尼崎や明石の業者が毛皮採取目的で繁殖。昭和初期に野外に放ったという。1935年に大阪、51年に近畿一円や四国、中国地方で生息を確認。現在の生息域は岐阜や静岡以西の西日本とみられる。
イタチはネズミ駆除に活用された歴史もあるが、近年は有害鳥獣として扱われる。環境省によると、イタチの捕獲数(2016年度)は全国で約1500頭。大阪府が約700頭と半数近くを占める。
なぜ大阪府が突出して多いのだろうか。「コナモン(粉物)が好物なのでは」という上司の冗談は愛想笑いで流した。確かにイタチは雑食性だが、主食はネズミや小鳥などの小動物という。より有力な情報を得るため、イタチの被害に悩む民家を訪ねた。
「10日ほど前から、壁に頭突きをするような音がしている」と訴えるのは、大阪市住吉区の80代の女性。住居は築60年の木造住宅で隙間が多い。同行させてくれた駆除業者、大洋防疫研究所(大阪府八尾市)の松田健太郎さんによると、イタチは3センチほどの隙間があればどこからでも侵入できるという。
イタチは民家の屋根裏など暖かい場所を好み、断熱材のグラスウールを巣作りに利用することも。「大阪府には古い家屋が集まっている地域が多い」(松田さん)のも、イタチには都合がいいようだ。
確かに大阪では木造家屋の集まる古い住宅地が多い。国土交通省の調査によると、地震時などに著しく危険とされる密集市街地は全国で2982ヘクタール(19年度末)。特に大阪府で解消が進まず、全国の6割超を占めている。
「水都」といわれる大阪の地形との関連も見逃せない。
害虫・害獣駆除の研究や技術指導を行う日本ペストコントロール協会(東京・千代田)によると、ネズミ駆除の相談は大阪が西日本で最も多い。降雨時に水が集まる低地や地下水路が多く、シベリアイタチが好んで捕食するドブネズミも多数生息するという。
一方、大阪府内でイタチの捕獲数が多いのは、自治体の熱心な取り組みの成果という側面もある。捕獲には市町村長の許可が必要で、東大阪市などでは無償で捕獲道具を貸し出す。同市によると、19年度は37件の申請があり、市民の手で32頭を捕獲した。
捕獲したイタチは水辺などに放つか殺処分する。大阪府ペストコントロール協会(大阪市中央区)によると「人情味のある大阪では、大半の人が放獣を望む」。殺処分より安く済むのも理由というが、イタチごっこのような気も……。(古田翔悟)